アメリカがエジプトのムスリム同胞団と、コンタクトを取っていることを、明らかにした。これは極めて当然のように思えるだろうが、実はアメリカの中東政策の上で、大きな変化と言えるのではないか。
ムスリム同胞団はエジプトでは、ナセル、サダト、ムバーラク大統領の時代、いずれも非合法組織とされてきていた。なかでも、ナセル時代には弾圧を受け、多くのメンバーが、外国に逃れている。
しかし、ムスリム同胞団はしぶとく、エジプト国内にその細胞を残し、しかも拡大していき、各種職能組合を牛耳るようになり、その組織をバックに国会議員を、出すほどになっていた。つまり、ムスリム同胞団はエジプト社会の中にあって、最も強固で緻密なネットワークを持つ、政治組織(宗教集団だが)になっていたということだ。
ムバーラク大統領時代になり、次第にムスリム同胞団の存在が、政権側にとって不安材料の度を、増してきていたにもかかわらず、アメリカは非公式にこの組織とコンタクトをとり、ムバーラク時代の晩年には、公式にムスリム同胞団の幹部メンバーをアメリカに招待していた。
そうした流れの上で、今回のエジプト革命終盤から、ムスリム同胞団が台頭し、革命達成後には軍最高評議会(実質的最高権力組織)と協力する姿勢を、示してきている。
もし、このままの推移で行けば、エジプト国内では、ムスリム同胞団が相当の国会議席を、獲得することは間違いなかろう。それは、ムスリム同胞団が堅固な政治組織としての、経験を積んできていること、全国に広がるネットワークがあることなどから、選挙戦で有利に戦えるということだ。
他方、今回の革命を実際に主導した、世俗的各組織は、政治組織としては新しく、経験も少ない。
そのことが、憲法を先に制定するか、選挙後に憲法改正をするか、という問題をエジプト国内で、盛り上げているのだ。政治活動の経験が少ない組織は、出来るだけ時間を稼ぎ、選挙戦を有利に戦いたいと思っている。したがって、憲法の改正が先であり、選挙はその後だと主張している。
他方、ムスリム同胞団はいまのうちに選挙を実施し、出来るだけ多くの議席を、獲得したいと願っている。ムスリム同胞団が軍最高評議会に接近した真因は、ここにあるのであろう。
最近になって軍最高評議会は、憲法の改正を先に進めることや、選挙日程を遅延することを検討し始めている。それはムスリム同胞団に対する、警戒心からかもしれない。
いずれにしろ、今の段階でアメリカが、ムスリム同胞団との関係を公式に認めたということは、エジプトだけではなく、アラブの多くの国々に、ショックを与えたことであろう。
ヨルダンにもムスリム同胞団は存在し、アブドッラー国王体制に対する、強力な圧力集団を形成しているし、シリアでも最も古手の反体制大組織として、ムスリム同胞団は存在している。これらの国々のムスリム同胞団が、社会の表面に出て活動を活発にして行けば、ヨルダンでもシリアでも、政府は極めて危険な状況に、追い込まれていこう。
アメリカ政府が現段階で、ムスリム同胞団を正式に認めたということは、アメリカ政府が今後、アラブ各国の体制に圧力をかけ、ムスリム同胞団が取って代わることを、目指しているのではないか、と各国政府や権力者たちは、推測しよう。そのことが今後、アラブ各国とアメリカとの関係を、変化させていくものと思われる。