「アラブにもいい話はある」

2011年6月29日

 アラブといえば石油やガスの成金趣味、戦争や内紛の話ばかりのように思えるのだが、必ずしもそうではない。今回出張で出かけたアラブ首長国連邦のひとつ、アジュマーン首長国では、ほのぼのとした光景を見ることが出来た。

 笹川平和財団の松長昭さんが、偶然知り合ったアブドルアジーズ氏を、訪問するという話が持ち上がって、出かけたのだ。私にはアブドルアジーズ氏について、現地に入るまでは、特に強い興味があったわけではなかった。

どちらかと言えば、アラブ首長国連邦を構成する首長国で、石油もガスもない国には、いまだに古くからの伝統が、残っているのではないか、ということの方に興味があった。だが実際に行って彼に会い、行動を共にし、話し合ってみるとなかなかの好人物であることがわかった。

彼はトヨタのランクルを自ら運転して、彼が運営している幾つかの慈善組織を、案内してくれた。成人女性を対象にした裁縫学校や、伝統治療院、病院、薬の再利用センターなどだった。

そこまでは別に驚かないのだが、実は非常に経済的な、配慮をしていることに気がついたのだ。例えば、薬の再利用センターでは、病院が支給し、患者が使い残した薬で、使用期限が過ぎていないものを集め、それを無償で提供しているのだ。

薬は種類ごとに、きちんと仕分けられ、棚に並べられてあった。そのうちのひとつを手に取って彼は『この薬は糖尿病の薬で高価なものです。もったいないと思ってこうしているんです。』と説明してくれた。

湾岸諸国のなかでも、アラブ首長国連邦は金持ちの国、石油が出ない首長国にも、資金は潤沢に流れ込んでいるのにもかかわらず、彼はそうした工夫をしているのだ。ややもすれば、アラブ人は見栄っ張りで、金があることをことさらに強調したがるのだが、彼はそうではなかった。

彼の倹約振りは、レストランに招待してくれたときも、ハッキ示された。通常アラブの金持ちは、客を招待すると、人数の3~4倍の料理を注文するのだが、彼は1・3倍程度しか注文しなかった。もちろん、われわれには何の不満もなかった。十分に腹いっぱいご馳走になれたのだから。

その後お茶を飲みに行ったときも、お菓子とアイスクリームも適量だけ注文した。少しアイスクリームが残ったので誰か食べろよと私が言ったところ、彼はそのうち息子たちが来るから、残しておいていいんだと言った。

遅れてきた子供たちは、その残っていたアイスクリームを、何事もない顔で食べていた。つまり、彼と彼の家族は何時も、無駄をきちんと省いて、生活しているということだ。

彼にはアジュマーン首長国が、どのような状況にあるのかが、はっきり分かっているのだ。産油国からの資金供与があるうちは豊かなのだが、それは外交上問題が発生すれば、たちまちにして干上がってしまうのだ。だから、きちんと自身が率先して、無駄を省く教育を子供にし、社会にも無駄のない慈善活動の仕方を、教えているのだ。お見事としか言いようがない。

実はこのアブドルアジーズ氏は、44歳の首長国で王位継承権3番目に位置している、大変な高位の人物だったのだ。彼の正式名称はシェイク・アブドルアジーズ・アルヌアイミなのだ、つまり彼は王家の人物だったのだ。

しかも、その彼が隣のドバイ首長国の人たちからも、慕われている好人物であることが分かったのは、エコ展示会が開かれている会場に、一緒に出かけたときだった。多くの観客が彼を見かけると視線を向け、担当者たちは玄関まで出迎え、大歓迎で会場を案内していた。

お見事としか言いようがない、日陰の気温が48度にもなるアジュマーン首長国で、彼と出会ったことで、爽やかな印象を受けた。こうした人物がリードする国にこそ、日本は協力の手を差し伸べるべきではないのか。

油乞い外交が一時期非難されたが、その姿勢は現在でも変わりない。みえみえのもの欲しがり外交では、国際社会のなかで、大人の印象を与えることは出来まい。外国に行くと『侍の国、紳士の国、礼節の国の人』として迎えられるのだがこれに応えうる外交官は日本にいるのだろうか?ビジネスマンには?ちょっと自信が持てない。せめてそうありたい、と実感した視察の旅だった。