「トルコ幸運な出来事・ガザ支援船は中止も」

2011年6月16日


 トルコとイスラエルとの関係が、このところ悪化の一途をたどっている、という見方をする人が多いようだ。実際の両国関係は、決して悪くない。トルコ在住のユダヤ・トルコ人が少なくないため、トルコとイスラエルとの間には、幾つもの地下水脈が、通じているからだ。

 それでも、昨年起こったフロテッラ号事件では、トルコとイスラエルとの関係が、相当厳しいものになった。述べるまでもなく、それはガザ支援者のトルコ人9人(うち1人はトルコ系アメリカ人)が、イスラエルの特殊部隊による、フロテッラ号襲撃で死亡したからだ。

 今年も支援船フロテッラ号をガザに送る計画が、トルコの支援組織IHHによって建てられていた。そのことは少なからぬ悪影響を、トルコ・イスラエル関係に及ぼすもの、と懸念されていた。

 この点について、私はIHHがあくまでも、支援船送り出しにこだわる場合、エルドアン首相が阻止するのではないか、と思っていた。なぜならば、支援船が送ら得るであろう時期は、トルコの選挙が終わった後であり、政府が阻止したとしても、選挙に影響を及ぼさないからだった。

 ところが、ここにきてトルコでは、もっと重要で大きな問題が、持ち上がっている。それはシリアの国内が混乱し、シリア軍がシリア北部の住民に、攻撃を加える危険から、シリア住民がトルコに逃げだしたのだ。

 このシリアからの難民が、現在トルコとシリアの国境の、トルコ側に逃れ既に、8400人が留まっている。彼らシリア難民に対する支援が、緊急の問題としてトルコ国内では、持ち上がっており、ガザ支援どころでは、なくなってきているのだ。

 IHHも、多分にこのシリア難民問題を考慮しており、ガザ支援を中断し、シリア難民への支援を、行う可能性が高くなってきている。そうあって欲しいものだ。シリアからの難民は、ほとんどが高齢者と子供たちであり、彼らには食料も燃料も、ないということだ。

 シリアからの難民が、トルコに逃れたのはいいが、餓死するようなことになれば、トルコとしては官民ともに、大きな恥となるであろう。現地は雨が降っており、難民の間には病人も出てきている、と報じられている。

 IHHは緊急の支援を、シリア難民にこそすべきであろう。そうでなければ、極めて非人道的な、政治的プロパガンダにすぎない、と世界から非難を受けるし、トルコ国内でも支持者が減ることになろう。トルコ政府にとっては、シリア難民の流入は、思わぬ幸運ということかもしれない。