トルコの与党開発公正党(AKP)は、イスラム色の濃い政党として、世界的に認識されている。したがって、これまでトルコの開発公正党は、ムスリム同胞団に対し、一定の敬意を払ってきていたようだ。
なかでも、エジプトのムスリム同胞団が、権力に近い位置に移行したことで、新たなトルコ・エジプト両国関係の構築が、可能なのではないかという期待が、トルコ側には生まれていたものと思われる。
しかし、ここにきて、エジプトのムスリム同胞団がトルコ政府に、クレームを付け始めている。それは、トルコ政府がシリアの国内混乱に、関与しているという言いがかりだ。
トルコにしてみれば、シリアは長い国境を接する隣国であり、シリアの不安定化や内紛は、直接、トルコに影響を及ぼすことになる。今回の場合も、既に400人以上のシリア人が、難民としてトルコ領内に、雪崩込んでいるのだ。
こうした現実がある以上、トルコが何らかの働きかけを、シリアにするのは当然ということであろう。すでに、トルコが難民の流入を阻止するために、シリア領内に軍を送り、解放区(難民居住区)を造るのではないか、という噂が流れている。
他方、エジプトのムスリム同胞団は、シリアのムスリム同胞団が、長い弾圧の挙句、シリア政府に対し、明確に挑戦する立場を、明らかにしたことで、やがて、シリアはムスリム同胞団が支配する国になる、という期待感が、生まれているのであろう。
そうしたエジプトのムスリム同胞団が描く、シナリオの邪魔になるのは、トルコのシリア内紛への介入であろう。シリアのミリシアは、トルコから武器を密輸している、という情報が流れているのも、そうした思惑が絡んでいるのかもしれない。
私に言わせれば、トルコ政府が一時期、エジプトのムスリム同胞団を評価しているのは間違いだ、とトルコの人たちに言ってきたが、今回のことで、トルコの人たちもムスリム同胞団とは何者なのか、ということが、少しは分かったのではないか。
イスラム色の強い組織、政党、団体といっても、その中身はそれぞれに特徴がある。外部の人間がイスラム世界を見る時、イスラム教徒は一つ、というとらえ方をするのは、往々にして間違いの元になるということだ。