「エジプト国民は世俗主義を選択」

2011年6月 6日

 大衆蜂起、エジプトの革命はこの国に、何をもたらすのだろうか。欧米はチュニジアで始まり、エジプト、リビア、シリア、イエメンと広がる大衆蜂起を、『アラブの春』と表現し、あたかも素晴らしいことが待っているという、とらえ方をしているようだ。

 しかし、現実はそうばかりでもなさそうだ。革命達成後のエジプト国民の生活は、物価高と失業でどんどん苦しくなっている。自分が食べることも、家族に食べさせることにも、事欠くエジプト国民が、増えているのだ。

 そうした中で『貧しい大衆に対する支援』を売り物にしてきたムスリム同胞団が、権力の座に近付いて来るに従って、その本性を現し始めているようだ。現在、エジプトの最高権力機関は軍最高評議会だが、ムスリム同胞団は軍部との良好な関係と、アメリカとの関係維持に、力点を置き始めている。

 エジプト軍にしてみれば、エジプト国内各組織との、連携という立場から、ムスリム同胞団との関係を、維持しているのであって、ムスリム同胞団と手を携えて、新しいエジプトを創っていこう、とは考えていないだろう。

 アメリカの場合は、トルコで成功した穏健イスラム国家(AKP『開発公正党』を、アラブでもムスリム同胞団を使って創っていこう、ということかもしれない。しかし、それはアメリカの希望に満ちた、幻想でしかあるまい。

 ムスリム同胞団がどのような組織であるのかを、一番よく知っているのはムスリム同胞団組織が誕生し、たエジプトの国民たちであろう。エジプト国民は自分たちの国民性を、よく知っているし、過去の歴史の中で、ムスリム同胞団がどのような組織であり、どう動いてきたのかを、よく知っているのだ。

 9月にはエジプトで、国会議員選挙が予定されているが、最近では、ムスリム同胞団についての予想が大分変わってきている。革命当初は、ムスリム同胞団自身が予測していたように、50パーセント以上の議席を、ムスリム同胞団が獲得するのではないか、と思われていた。

 しかし、最近行われた世論調査の結果では、全くこれとは異なる結果が出ている。エジプト国民のほんの少しが、ムスリム同胞団を支持しており、イラン型の神権体制が、出来ることを望んでいるのは、1パーセントにも満たない、ということだ。

 与論調査の結果では、ムスリム同胞団を支持する割合は、15パーセントで、世俗体制を支持する国民の割合は、60パーセントだということだ。この結果は、エジプト国民の多くが、ムスリム同胞団の手に権力が渡った場合、シャリーア(イスラム法)を施行する、と考えているからであろう。

 問題は、革命を越した世俗派の大衆には、いまだに9月の選挙で十分戦えるだけの、組織が出来上がっていないということだ。他方、ムスリム同胞団には、資金も組織もある。そうなると過半数とまではいかなくとも、相当の割合(25~39%)をムスリム同胞団が、勝ち取る可能性があろう。

 それだけでも、ムスリム同胞団の議会内での発言力は、相当なものとなろう。その時、軍はどう動くのかが、問題になってくるのではないか。