パレスチナ自治政府のマハムード・アッバース議長が、仇敵ハマースとの間に、合同政府を結成する合意が成立した、と華々しく世界にアピールして、既に2週間以上の時間が経過している。
そして、その後パレスチナ自治政府はご丁寧にも、ファッヤード氏(ファタハ・メンバー)が首相職に就任するとも伝えた。このパレスチナ自治政府の発表だけを見ていると、アラブ諸国が混迷のなかにあるのに、パレスチナだけは逆に、結束を固めたかに思えるのだが、実際はどうであろうか。
最初に、ハマース執行部内部のメンバーから、今回の合意に対するクレームが付いた。ガザのハマースの幹部マハムード・ザハル氏が、ダマスカス在住のハーリド・ミシャアル氏のファタハとの合意は「ハマースはイスラエルとの和平交渉を支持したことも無いし、パレスチナの代理で交渉することも、支持した覚えはない。」と語り、これは暴走だとし、誰もパレスチナ闘争の放棄を、宣言する権利はない、と痛烈に非難した。
これに対し、ダマスカスのハマース・メンバーは、ファタハとの合意が合法的なものであり、何ら問題ないと撥ねつけている。いずれが正しいかは別として、今回の合意を巡りハマースの幹部の間で、意見が割れたことは事実であろう。しかも、ガザに居住する者と、ダマスカスに居住する者との間で、意見が分かれたということは、深刻であろう。
合意が有効なものであり、パレスチナ人の間に、何らかの進展をもたらすものになるか否かは、ヨルダン川西岸地区とガザ地区での、ファタハ・メンバーとハマース・メンバーの、置かれた状況を見れば分かろう。
合意の段階で、ファタハとハマース双方が、勾留者の釈放を口にしていたが、ヨルダン川西岸地区ではハマースのメンバーが、勾留されたままになっているし、ガザ地区でも同様に、ファタハのメンバーが勾留されたままになっている。つまり、ファタハとハマース双方の不信感は、いまだに存在するということだ。
ファタハはヨルダン川西岸地区を支配し、ハマースはガザ地区を支配するという状況に、何の変化もなく、双方のメンバーは敵側の地区では、不安の中に生活しているということだ。
こうした中で、パレスチナ議会選挙が実際に行われるのか否かが、疑問視され始めている。
合意後に変化したことは、ヨルダン川西岸地区で、ファタハの旗以外に、ハマースの旗が翻るようになったことであろう。そして、この旗を掲げる者たちは、『合意はコスメチックなものでしかない。』と言っている。
つまり、今回の合意は何のカードも無くなった、マハムード・アッバース議長が切り出した意味のないカードだった、ということだ。そして、ダマスカスに居住するハマースの幹部が、このイカサマに加担した、ということだ。そのことは次の変化を、呼び起こすことになろう。