「サウジアラビア政府の苦しい決定」

2011年6月 1日

 サウジアラビア政府が、苦しい決定を下した。それは、サウジアラビアでの外国人の就業期限を、6年以内とするという、決定を下したことだ。この決定により、サウジアラビアの民間企業で働く、何百万人という熟練のスタッフが、帰国せざるを得なくなるということだ。

 サウジアラビアの民間企業は、多くの場合、サウジアラビア人がオーナーではあるが、インド人、パキスタン人、シリア人、パレスチナ人、エジプト人、レバノン人たちが、実際の切り盛りをしているのだ。

 これら外人の多くは、英語を話し、アラビア語が出来、しかもコンピューターも使いこなせ、ビジネスに精通しているのだ。したがって、彼らが離職することは、サウジアラビアの民間企業の活動が、ストップすることを、意味しているのだ。

 サウジアラビアで働く外人スタッフは、6年どころか、10年以上もサウジアラビアの民間企業で、働いている者がほとんどで、会社の内容を完全に把握しているのだ。もちろん、外国の取引先との人脈も、彼らがしっかり掴んでいるのだ。

 今回、サウジアラビア政府が決定した、外人出稼ぎ者に対する6年の期限設定は、結果的に、サウジアラビアの民間企業を、倒産に追い込む危険性がある。サウジアラビア人のスタッフでは、とても外人スタッフがこなしていた仕事は、こなせないのだ。

 今回の決定を、サウジアラビア政府が下したのは、サウジアラビアの若者層の、失業問題解決が目的であろう。もし、この失業問題を放置しておけば、他のアラブの国々で起こったのと同じような、大衆蜂起がサウジアラビアでも、起こってしまう危険性がある。現在、サウジアラビアの公式な失業率は、10・5パーセントと発表されているが、20パーセントを優に超えているというのが、一般的な認識だ。

 2600万人のサウジ人口のうち、800万人が外国人出稼ぎ者で、占められているのだから、彼らを追放すれば、サウジアラビア人に職場を確保できる、という安易な考えであろうが、そうは行くまい。

 職を探すサウジアラビア人は、50万人といわれているが、サウジアラビア人はほとんどが、民間企業の求める仕事上の、能力を有していないし、外人よりも高いサラリーを、支払わなければならないのだ。その上、国家公務員と同と同じような権利を求められたのでは、民間企業は立ち行かない。

 他方、サウジアラビアに260万人の、出稼ぎ者を送り出しているエジプトにとっても(このうちの70パーセントが6年以上の長期滞在者)、今回のサウジアラビア政府の決定は、大きな問題となろう。リビアから100万人以上の出稼ぎ者が内戦で帰国し、エジプトの革命で観光業は停止状態にあり、エジプト国内の失業率は11.9パーセントに達した、と公式には伝えられている。実際には、25~30パーセントではないのか。

 エジプトが再度、更なる不安定化に向かう要因に、確実になるのが、今回のサウジアラビア政府の決定だ。そのことは、アラブ全体の不安定化を、引き起こすことになる、危険性がある。

 サウジアラビア政府は、自国内の問題解決に、外国人出稼ぎ者の追放を決定したが、そのことはより、大きな規模での不安定化を、招くことになろう。サウジアラビアの民間企業のオーナーたちは、今回の決定で自社が危険な状態に陥っていくわけだから、サウジアラビアの王制に対し、不満を抱くだろうし、場合によっては支持を、止めるかもしれないのだ。