「トルコ軍がシリア領内に安全地帯設定構想」

2011年5月31日

 シリアの内紛状況が、日に日に悪化する中で、多数のシリア人の難民が、トルコ領内に流れ込んでいる。その数は増すばかりだ。なかでも、シリアのクルド人のトルコ領内への流入が、トルコ側で大きな問題になっている。

それは、トルコ政府にとって同国南東部の、クルド人居住地域が、頭痛の種になっていることに加え、そこにシリアから、クルド人がさらに流入してくれば、問題は複雑さをますます、増大させるからだ。

 トルコ政府はこれまで、何度となくシリア政府に対して、善処するよう要請してきたが、何の具体策もとられていない。トルコはシリア政府に対して、民主化を進めなければ、シリア国内が危険な状態に陥っていくことも、警告し続けてきていた。最近では、具体的に、第4旅団をデモが起こっている都市の、路上から撤収させるべきだ、とまで踏み込んだ提案をしたほどだ。

 トルコがシリアからの難民、なかでもクルド人難民について、神経質になるのには、それなりの理由がある。1991年イラクのサダム体制が、クルド人弾圧に踏み切った時、何万人という数のクルド人が、トルコに亡命してきた経緯がある。そして、彼らはアメリカ軍がイラクに攻撃を加え、イラクのクルド地区が解放されるまで、イラクに帰国することがなかったのだ。

 今回の場合も、もし長期に渡ってシリアのクルド人が、トルコ領内にとどまるようなことになれば、トルコが大きな負担を担わざるを得なくなるのだ。

 トルコ政府はシリア政府が、難民対応も国内の公正な選挙の実施を含む、民主化対策もシリア在住のクルド人に国籍を与えないことにも、いらだちを感じている。その結果、最近ではトルコが軍を送り、シリア国内に難民用の安全地帯を設ける、という情報が飛び交い始めている。

 この安全地帯はシリアのトルコ国境に近い、カーミシリ市ばかりではなく、デール・ズール県にまで広がる広域にまたがるもののようだ。

 もしトルコが、実際にシリア領内に軍を送り、安全地帯を設定するようになった場合、シリアはどう対応するのだろうか。国際社会では、シリアのアサド政権の非人道的な、デモ参加者に対する対応もあることから、トルコ軍のシリア進出は支持される確率が、高いのではないか。

 シリア軍にはとても、トルコ軍を軍事力で追い返すほどの、実力はあるまい。