元IAEAの事務局長で、近い将来、エジプトで実施されるであろう大統領選挙に、立候補するだろうと見られている、ムハンマド・エルバラダイ氏が、ムスリム同胞団の動きと、エジプト革命について、懸念を表明している。
彼によれば、ムスリム同胞団が権力を握った場合、エジプトはイスラム法が施行され、より厳格な社会になっていくのではないか、ということだ。そのことは、世俗的な社会状況が、後退していくということであろう。
加えて、ムハンマド・エルバラダイ氏は現在のエジプトが、経済的に相当苦しくなってきていることも、指摘している。エジプトの外貨収入の主要なものは、スエズ運河の通過料、シナイ半島のガス石油、外国出稼ぎ者の送金に加え、観光収入となっている。
なかでも、観光収入は観光客が泊まるホテルや、国内移動のバス・タクシー・飛行機、それに加えて、観光客が食べる野菜や果物に至ることから、裾野が極めて広いのだ。もちろん農家の歳端もいかない子ですらも、お土産作りでわずかではあるが、現金収入を得ることができるのだ。
しかし、革命後このエジプトの観光産業は、死に体になっており、観光大臣は65パーセントまで回復したと言うが、観光業者に言わせると、せいぜい5パーセント程度しか、回復していないということだ。
もちろん、これ以外の理由でも、エジプト経済は瀕死の状態にあり、失業者が増加している。また就業者の給与も、大分引き下げられているということだ。他方では、物価高が昂進しているのだから、庶民の生活は日に日に、苦しさを増しているということだ。
こうした苦しい状況にあるエジプト国民に対して、ムスリム同胞団は救済の方法を持っていないというのが、ムハンマド・エルバラダイ氏の判断のようだ。ムスリム同胞団はこれまで、貧民救済などで人気を稼いできたが、それは国家の国民に対する、福祉政策の届かない部分での話であり、全体をカバーするものではない。
結局のところ、ムスリム同胞団は打つ手がなくなり、国民は生活苦に陥っていく、ということのようだ。しかし、ムスリム同胞団は選挙の早期実施を支持しており、強引に議会の過半数を獲得しよう、としているのであろう。
ムスリム同胞団以外の、今回の革命の担い手たちの集団は、いまだに政党を結成し、全国規模で選挙に向けて、行動を起こす段階には入っていない。そのことから、ムスリム同胞団が選挙を有利に戦い、結果は彼らの望むようなものになる可能性が高いのだが、それは国民の望むところではあるまい。
ムハンマド・エルバラダイ氏は、ムスリム同胞団の有利な状況の中で進められる、エジプトの新たな体制が、議会を中心とするものなのか、大統領権限が優先されるのか、あるいはそれ以外のものになるか、不明だと語っている。
加えて、エジプト革命の将来については、アラブの革命の手本になれればいいのだが、その為にはまだまだ多くの努力がいる、と語っている。つまり、ムスリム同胞団の先行は目立つが、それ以外の何物も不明確なままだ、ということであろう。そうであるからこそ、ムハンマド・エルバラダイ氏は、ムスリム同胞団の先走りが怖いのであろう。