エジプトは今、経済危機に向かって進んでいる。大衆蜂起の結果、ムバーラク前大統領が辞任し、多くの閣僚や経済人が、ムバーラク政権下で行ってきた汚職が元で、逮捕され裁判にかけられている。
結果的に、エジプト政府や主要な民間企業の活動が、停止状態にあるのだ。一説によれば、エジプトの民間企業は現状が不安定であることから、50パーセントの工場や事務所の活動を停止し、残りの50パーセントも30パーセント以下の操業状態に、落としているということだ。
しかし、そうした経済状況とは関係なく、大衆は権利の拡大を叫び、賃上げ要求を繰り返している。もちろん、失業者も激増しているのだが、大衆革命の熱病に罹っているためか、冷静に現実を見る目が、エジプト国民の間では、いまだに開かれていないようだ。
そうしたなかで、エジプト政府が頼れるのは、湾岸産油諸国からの資金援助だ。その筆頭はサウジアラビアなのだが、これまでサウジアラビア政府は、ムバーラク前大統領を支持する立場から、もし、ムバーラク前大統領を裁判にかけるようなら、一切の資金援助をしない、という立場を表明してきていた。
それだけではない、サウジアラビア政府はムバーラク前大統領を、裁判にかけるようなことがあれば、全てのエジプト人を、サウジアラビアから国外追放する、とも警告してきていた。
ここに来て、サウジアラビア政府がエジプトに対して、40億ドルの現金での援助をする、というニュースが伝わってきている。つまり、先にエジプトの首相がサウジアラビアを始めとする、湾岸諸国に支援要請で回ったときの反応は、最悪だったと伝えられていることから考えて、サウジアラビア政府のエジプト政府に対する態度が、少し軟化したということであろう。
エジプト政府はこのサウジアラビア政府の資金援助を、国内企業へのソフト・ローンとして貸し出すほか、政府の運営資金に回すことを、考えているようだ。それにしても、エジプト政府がIMFに要請しているローンが、100~120億ドルであることを考えると、40億ドルは一瞬の間しか、同国の経済を救えないのかもしれない。
それでも、サウジアラビアの対応が変わったことは、まさに干天の慈雨であろう。願わくば、それがタラレバの話ではなく、現実のものであり、いち早く実施されることを願う。同時にエジプト国民が、出来るだけ早く、現実に目覚める必要があろう。