「エジプト軍の悩みはムバーラク対応」

2011年5月19日

 革命後に実権を掌握したエジプト軍にとって、現在は向こうところ敵無しの状態であろう。しかし、このエジプト軍にも泣きどころがある。それは辞任させた前大統領の、ムバーラク氏に対する対応だ。

 大統領職を辞任させたのであり、彼が現職にあるときに、多くの国民が殺されたのだから、裁判にかけて処刑すればいいと考えるのだが、そうはいかない部分がある。

 ムバーラク前大統領を逮捕し、刑を執行するには二つの難関が、待っているのだ。ひとつはムバーラク氏をかばっている、シナイ半島のベドウイン部族であり、もうひとつはサウジアラビアを始めとする湾岸諸国だ。

 シナイ半島はエジプト領土であり、何の問題もなさそうに見えるのだが、ここには40万人ほどのベドウインが居住しており、彼らはいわば自治区のような状況下にいるのだ。

シナイ半島のことをあるエジプト人は、島のようなものだ、エジプトからシナイ半島に渡るには、二つのルートがあり、そこが閉鎖されれば、軍隊も航空機と船舶を使わなければ入れない、他方はイスラエルとの国境になっており、島と同じなのだと語っていた。

 その島(シナイ半島)の住民がベドウインであり、彼らはムバーラク前大統領を、エジプト軍には引き渡さない、と言っているのだ。もし、エジプト軍がムバーラク前大統領を強引に逮捕し、カイロの連れ戻そうとすれば、ある程度の流血を覚悟しなければ、ならないということになる。

 もう一つの難関は、サウジアラビアなど湾岸産油諸国だ。これらの国には、多くのエジプト人が、仕事に出かけているが、ムバーラク前大統領を逮捕し、裁判にかけるのなら、全てのエジプト人を国外追放する、とサウジアラビア政府はエジプト軍に伝えたのだ。

 サウジアラビアを中心に、湾岸諸国にはおよそ、200万人の出稼ぎ者がいると仮定した場合、彼らがエジプトに居住する家族に送る送金は、ストップするばかりではなく、彼ら自身が路頭に迷うことになる。

 これらの人たちが家族で生活していくために、最低必要な食糧費を、たとえば1日3ドルとして計算した場合、1日600万ドルの出費が必要になる、それは政府がカバーしなければなるまい。それは、1カ月で1800万ドル、1年ではその12倍、2億1600万ドルということになる。

 リビアからも、100万人以上の出稼ぎ者が逃れてきている。この出稼ぎ難民の対応に、エジプト政府には頭が痛いのだ。そうなるとなかなか、ムバーラク前大統領に対して厳しい措置を取ることは、困難なのではないか。

エジプト軍はムバーラク大統領が病気を悪化させて、シナイ半島のシャルムエルシェイクにある病院に、留まってくれることを、本音では願っているのかもしれない。