昨年末から始まったアラブ諸国の大激動は、チュニジアのベン・アリ政権と、エジプトのムバーラク政権という長期政権を打倒し、その後も拡大している。
現在では、シリアとイエメン、そしてリビアが最も激しい変革の波に、襲われているが、それ以外にも、ヨルダンやバハレーンでも起こり、湾岸諸国が金に物を言わせて沈めようとし、一時的に成功したかのように見えてる。
この流れのなかで、あわてたのはパレスチナ自治政府の、マハムード・アッバース議長のようだ。彼はこれまで仇敵としてきた、ハマースとの妥協を進め、エジプトの仲介で暫定的な合意に至っている。
パレスチナ内部では、マハムード・アッバース議長が進めてきた、イスラエルとの和平が、何の成果も生まないばかりか、和平交渉の裏では、ヨルダン川西岸地区の入植地が、どんどん拡大してきていた。
このため、多くのマハムード・アッバース議長が主導する、ファタハのメンバーの間からも、現在のイスラエルに対する平和的な対応(和平交渉)に対し、不満が高まっている。
アラブ諸国で大衆の不満が拡大し、幾つもの国々で体制打倒の蜂起が起こったが、このような状況下では、アラブ諸国で起こった現象が、パレスチナでも十分起こりうるものであろう。
そこで、マハムード・アッバース議長は、仇敵のハマースとの合意を生み出すことによって、この窮地から逃れようということであろう。しかし、それにはハマースの主張してきた、『イスラエルの存在否定。』『武力闘争によるパレスチナ問題の解決。』といった強硬路線の一部を、マハムード・アッバース議長も受け入れざるを得ない、ということではないのか。イスラエルのネタニヤフ首相がこうした、ハマースとの妥協路線を取り始めた、マハムード・アッバース議長に対し『イスラエルとの和平を望むのか、ハマースとの合意を望むのか選択しろ。』と言ったのは無理からぬ発言であろう。
しかし、ネタニヤフ首相はマハムード・アッバース議長を、責めるだけでは済むまい。パレスチナ大衆の不満は、マハムード・アッバース議長に対して向けられると同時に、イスラエルにも向けられるからだ。
ハマースとファタハの妥協的合意は、遂にはファタハのメンバーも、ハマースの路線に近づけることになり、彼らの攻撃の矛先は、イスラエルに向かってくることになろう。つまり、アラブ各国で起こっている大変革の波は、イスラエルにも向かってくるということだ。
イスラエルの政府高官が、その危険性を強く感じ、警告を発し始めている。