パレスチナ闘争組織のハマースは、ガザにその拠点を置いて活動しているが、対外関係の活動拠点は、シリアの首都ダマスカスにおいていた。ダマスカスにはハーリド・ミシャアルがおり、シリアとの良好な関係を維持するとともに、諸外国にハマース支持を、訴える活動をしていた。
述べるまでもなく、アラブの大義を堅持するシリア政府は、ハマースに対し格別の取り計らいと、支援をしていたということだ。ところが、5月1日になりハマースのダマスカス事務所が、突然閉鎖される運びとなった。
そして移転先が驚くことに、カタールの首都ドーハだというのだ。カタールと言えばアメリカ軍の基地があり、カタール政府はアメリカ政府と特別な関係にあるし、イスラエルに対しても、アラブ諸国の中では最も前向きな、対応をしている国だ。
一見、パレスチナ革命の敵のような感じさえするカタールに、何故ハマースはダマスカス市から活動拠点を、カタールのドーハ市に移したのであろうか。多くのパレスチナ問題専門家は、このニュースに唖然としたことであろう。
なかでも、アラブ民族主義のイデオロギーに凝り固まっていた人士には、今回のハマースの事務所移転ということが、理解出来ない行動ということになるのではないだろうか。
ハマースがシリアのダマスカス市から、カタールのドーハ市に拠点を移した理由は、よく考えてみれば納得のいくものであろう。それはハマースという組織がそもそも、ガザのムスリム同胞団を母体として、誕生したものであるということを知っていれば、簡単に解ける謎であろう。
ハマースはガザのムスリム同胞団の、活動体として誕生したものだが、シリアには同じムスリム同胞団が存在している。そのムスリム同胞団は反体制の立場なのだが、今まで沈黙し、シリアで始まった反政府活動に、関与しないで来ていた。
しかし、最近になってシリアのムスリム同胞団は、明確に反政府の立場を表明し、その行動に出ている。こうなると、シリア政府としてもハマースとしても、非常に難しい関係にならざるを得まい。
そこで、ダマスカス市に拠点をいていたパレスチナのハマースは、カタールのドーハ市に拠点を移すことを、決定したのではないか。
もう一つ考えられることは、アメリカ政府がムスリム同胞団を穏健なイスラム組織と判断し、今後の中東政策を展開する上で、ハマースも組める相手だ、と判断したことによるのではないか。
今年半ばには、パレスチナで統一選挙が実施されるが、それには資金も必要であろう。カタールはそのハマースの選挙のスポンサーになることも、約束したのではないか。