「ファタハとハマースの合意の意味」

2011年4月30日

 パレスチナの二大勢力であるファタハとハマースが、挙国一致内閣を樹立することで合意した、というニュースが流れている。これをほとんどの報道機関は、前向きに評価しているのではないだろうか。

 もちろん、パレスチナと対立関係にあるイスラエルにしてみれば、前向きに受け止められる内容ではない。敵が一致団結してかかってくる、と受け止めている。イスラエルのネタニヤフ首相はこの合意に対し「ファタハはイスラエルとの和平を選ぶのかハマースとの合意を選ぶのか。」と強く反発している。

 確かに、パレスチナ組織のハマースはファタハとは違って、いまだにイスラエルを国家として認めていない。スキさえあらば打倒し、ユダヤ人をパレスチナの地(イスラエル)から、追放したいと考えている。

 今回の合意で、ファタハは別にハマースの「イスラエルとはあくまでも戦う。」という強硬路線に従う、という立場を採ったのではない。ハマースはハマースで、ファタハの「イスラエルとの和平路線」を受け入れたのでもない。

 ファタハとハマースが合意したとはいえ、挙国一致内閣を作ることで合意したとは言うが、今までの両者の立場に、変化があったわけではないのだ。

 では何が今回の両派の合意を、生み出したのかというと、実はファタハもハマースも、手詰まり状態になっていたことが、あるのではないか。ファタハは長い間極めて卑屈に、イスラエルとの「和平ごっこ」を続けてきていた。

「和平ごっこ」というのはアメリカなどからの支援を受けるために、イスラエルと和平交渉をする姿勢を見せてきたのであって、和平が成立することを望んで、交渉してきたのではないということだ。

ハマースはハマースで、あくまでも武力闘争によってパレスチナの地を開放するのだ、と言い続けてはきているものの、実態はイスラエルの報復を受け、大きな人的物的被害を受け続けてきている、ということではないのか。

 こうした現実をパレスチナの大衆は、見守り続けさせられてきた。そうした中で、アラブ世界で燃え始めた大衆革命が、パレスチナ人の目にも留まったのだ。現在権力を有するファタハとハマースの動きに対し、大衆が反発して立ち上がる動きが、出てきているのであろう。

ハマースはこのなかで、エジプトのムバーラク政権が打倒されたことにより、ムスリム同胞団の力が強まり、ハマースに対する支援の幅が、広がる可能性が出てきている。現実に、エジプトのアラビー外相はガザとエジプトとの国境を、長期的に開放する方針を語っているのだ。

ファタハは大衆の蜂起を恐れ、ハマースもまた何らかの手段を講じなければ、大衆が強硬路線に嫌気をさしてくることを考え、エジプト革命をファタハとの間で、優位な妥協をするチャンス、と見たのではないか。

しかし、今回のファタハとハマースとの、挙国一致内閣の樹立合意は、決して生易しいものではなかろう。イスラエルがガザばかりではなく、ヨルダン川西岸地区に対しても、先制攻撃を仕掛けてくる、危険性があるからだ。

ファタハとハマースが、少しでもカジの執り方を間違えれば、イスラエルとパレスチナとの全面戦争に、発展する危険があるのだ。エジプトはパレスチナで戦争が起これば、自国内の意思統一が出来ると考えるかも知れないが、だからと言って、エジプトが参戦するとは思えない。シリアもまた、イスラエル・パレスチナ戦争が起これば、フルに利用することは考えても、参戦する意志はほとんどんなかろう。

ただ、エジプトやシリアがイスラエル・パレスチナ戦争を利用だけしようと思えば、両国民は激しい政府非難を、始めることが予想される。今回のファタハとハマースの挙国一致内閣樹立合意は、誰にとっても危険なものになるではないのか。