「ムバーラク元大統領を欠席裁判・大衆が企画」

2011年4月 8日

 エジプトのシナイ半島にあるリゾート地の、シャルム・エルシェイクの別荘に立てこもっている、ムバーラク・エジプト元大統領を何時、裁判にかけるのか、ということが気になっていた。

 革命の犠牲者の数が、5~600人にも達しているのだから、そのことだけでも、裁判が行われるのが順当だ、と思っていたからだ。そうでなければ、あの騒ぎは革命ではなく、軍部によるクーデターに過ぎなかったことに、なってしまうからだ。

実際には大衆によって始められた革命が、最終段階に軍のクーデターに、取って代わられたというのが、真相であろう。もし、あのままの状態が続いていたら、エジプト国内は混乱し、犯罪が多発していたことであろうから、軍部の決断は正しかった、ということであろう。

しかし、だからと言って、ムバーラク大統領とその家族、そして取り巻きの高官たちの行いが、何お咎めも受けないのでは、大衆によって起こされた革命は、名ばかりのものになってしまおう。

汎アラブのアルハヤート紙が、ブログのページで「ムバーラク欠席裁判」という、センセーショナルな記事を掲載した。それによれば、欠席裁判ではあるが、法廷で行われるのではなく、革命の舞台となったメイダーン・タハリール(解放広場)で、革命を担った大衆がムバーラク元大統領欠席の中で、裁判を行なうというものだった。

それならば納得がいこう、これまでムバーラク元大統領の隠し資産の調査、資産の凍結、子息ガマール氏の資産凍結、ムバーラク一家の国外脱出を禁ずるといった、勇ましいニュースが流れたが、その実態については、明らかになっていない。

それは、現在エジプトの最高権力に位置している、軍最高評議会のメンバーは、トップのタンターウイ国防大臣を筆頭に、皆ムバーラク子飼いの、人士たちによって占められているからだ。元大統領を裁判にかけるということは、彼らにとってはまさに、断腸の思いなのであろうか。同時に、叩けばホコリが出るということも、あるのではないか。

メイダーン・タハリール(解放広場)で開催される人民裁判では、ムバーラク元大統領に関連する、政治的汚職、資金的汚職、革命参加青年に対する殺害、などが取り上げられるようだ。

これ以外にも、ムバーラク元大統領が指名した、政府高官、地方議会議員、県知事なども、裁判の対象になるようだ。ムバーラク元大統領以外では、子息のガマール氏、ファタヒー・スルール氏、ザカリヤ・アズミ氏など、ムバーラク政権下の超要人の名前が挙がっている。

この人民裁判の開催について、軍は特別の対応をしないようだが、それは何を意味しているのであろうか。国民の不満のガスを抜く、いい機会だと捉えているのか。あるいはそれを踏み台にして、国民の強い要望という形にして、ムバーラク元大統領に対する正式な裁判に、持って行こうとしているのか分からない。前者ではないかと思われるのだが、真実はどうであろうか。今後の推移も見なければ判断できまい。

他方、大衆の力に自信を持ったムスリム同胞団などは、今回の革命を利用し、エジプトをイスラム国家にして行こう、と考えているようだ。彼らの考えが実行されることになれば、エジプトは観光国家としては、成立しなくなる危険性がある、

アルコールの販売禁止、銅像の顔を破壊する(偶像崇拝禁止というイスラム法解釈、アフガンのタリバンはそれを実行し世界から非難された))、女性の単身旅行の禁止などなどが考えられる。すでにカイロ市では、ナイト・クラブが閉店状態になり、カイロの名物、観光客のあこがれの的であった、女性のベリー・ダンサーは踊らなくなっている。

加えて、非常事態宣言が出されているために、夜間の帰宅が早くなった。夜11時以降の外出が禁止されているために、結婚式が軒並み取りやめになっているということだ。これまでは結婚式が始まるのは、夜の11時以降が普通だったからだ。なんとも味気ない話ではないか。