アラブ諸国の多くが直面している、大衆による反体制の動きが、シリアでも本格的になってきている。シリアの場合も長期の政権と、その政権が国民に果たしている、非常事態という足かせや、経済的困窮が大衆の体制に対する抗議の、主たる原因であろう。
シリアの首都ダマスカス市の南に位置する、デラア市で始まった大衆蜂起は、規模が大きかったことから、政府側の対応が厳しいものとなり、死傷者が出た。その状況を見ていた他の街でも、反政府のデモが起こり、全国規模にまで拡大していった。
この事態に対し、アサド大統領は緊急メッセージを発したが、それは反体制派の国民の、満足いくものではなかった。このため、シリアの国内状況はいまだに、安定を取り戻していない。
シリアの体制が不安定化することが、最も強く影響を及ぼすのは、トルコとパレスチナのハマース組織ではないかと思われる。
トルコはシリアと間に、最も長い国境線を有しており、シリアの不安定化は直接的に、トルコの国内状況に影響を、及ぼすことになる。事実、大衆蜂起が始まって間も無くすると、クルド・ゲリラがシリア国境からトルコに、越境攻撃をかけている。
シリアにはハッカリ市を中心に、15万人のクルド人が、居住しているからだ。シリア政府が国内の反政府運動に、神経を尖らせているなかでは、クルド人の動きまで取り締まることは、出来なかったから起こった現象であろう。
こうしたこともあってか、トルコのエルドアン首相やダウトール外相は、アサド大統領やモアッレム外相と連絡をとり、民主化を推進するように、シリア政府に助言している。このトルコ側の働きかけに対し、シリア側は十分に応えていないという不満が、トルコ側にはあるようだ。
そのトルコ側の不満が今後どう変化していくのか。トルコは根気よくシリアに非常事態の解除、政治犯の釈放、新憲法の制定といった民主化、変革を呼びかけていくのか、あるいはシリアに対し、もっと厳しい対応をするのか。
トルコの専門家たちは押しなべて、シリアの影響は軽微だと言っているが、トルコには時間的な余裕は、それほどないと思えるのだが。それは、トルコでは間も無く統一地方選挙が行われるからだ。
パレスチナのハマースにとっても、シリアの国内政情不安は、大きな問題であろう。ハマースにとってシリアは最も強力に、援護をしてくれている国だからだ。ハマースの幹部はガザからシリアのダマスカスに逃れ、そこで活動を継続している。
シリアの体制が不安定化すれば、シリア政府にとってハマースへの支援は、第二義的な重要性しか、持たなくなるであろう。ガザのハマースの政治的外交的活動は、シリアのダマスカスが中心であり、シリアはハマースにとって、物心両面で援助してくれている国でもある。
ハマースの仇敵であるファタハ組織や、パレスチナ自治政府に対して、苦言を呈してくれるのもシリアなのだ。しかし、いまのハマースにはシリア政府を支える、何の手だてもあるまい。
トルコは自国に影響しうる危険を避けるために、今後もシリア政府に対し、助言を続けるであろう。ハマースはじっと状況の推移を、見つめるだけなのであろう。いずれにしろ、トルコとハマースにとって、シリアの情勢は他人事では済まされない問題となっている。