中東地域、アラブ諸国が軒並みにいま、大きな転換点に立っているとは、ご存知だろう。その大変革の波は最初、若者たちによってツイッターやフェイスブック、パソコンで始められたこともご存知であろう。
しかし、現段階では、主役は青年層から、イスラム勢力に代わりつつあるようだ。なかでも、エジプトの場合にはムスリム同胞団の動きが、活発になってきている。ムスリム同胞団は憲法の改正を急ぎ、自分たちの組織を有利に展開すれば、権力を奪取することが出来る、と考えているようだ。
ムスリム同胞団が最初の大統領選挙に、独立候補を立てないと発表にたが、その裏には、ムスリム同胞団のしたたかな計算が、働いているのかもしれない。当初、ムスリム同胞団は軍の最高会議との、協力路線を打ち出し、革命後に結成された憲法の改正などを話し合う、合同委員会に参加している。
次いで、ムスリム同胞団は次回大統領選挙に、独自の候補を立てない、とも発表している。ムスリム同胞団のスポークスマンであるエリアン氏は、「ムスリム同胞団はあくまでも同組織のアイデアを広めることと、組織の価値を知ってもらうことにある。」と語っている。
果たしてそうであろうか。多分、ムスリム同胞団は革命達成後、政治組織としての性格を明確にし、権力奪取を狙っていることを、エジプト社会に示すことは危険だ、と判断しているのではないか。
そのため第一には、最も手ごわいエジプト軍との、協力と信頼関係を構築し、その後にエジプトの各層、各宗教を取り込んでいく、ということを考えているのであろう。
エジプト軍との関係では既に記したように、軍の最高会議が用意した、新エジプト建設のための合同会議に、率先して参加し、協力意志を十分に示している。
そのことは、国内が混乱から解放されることを望む、軍部にとっては、極めて歓迎すべきことであったろう。エジプト国内で10万人を超える、動員力を持っている組織は、ムスリム同胞団だけだからだ。つまり、ムスリム同胞団とエジプト軍部は、同床異夢の関係に、、あるということだ。
ムスリム同胞団はエジプトの社会にも、宥和政策をアピールしている。ムスリム同胞団員に限定しない「自由公正党」を組織している。この自由公正党には、コプト・キリスト教徒も加盟できるし、女性も歓迎するというものだ。
もしいま、エジプトで国会議員選挙が行われることになれば、ムスリム同胞団は少なくとも、3分の1の議席を獲得するだろうというのが、一般的な予測だ。ムスリム同胞団は革命後の、ドサクサの中で進められた、選挙に関する法改正を急ぎ、憲法改正の側に投票したのは、こうした事情があったからだ。
こうして述べると、ムスリム同胞団があたかも磐石の態勢で、前進しているかのように思え、明日にも、エジプトの国家権力を、一手に握るように思えるのだが、ことはどうもそう簡単ではないようだ。
ムスリム同胞団が進めている、自由公正党への党員勧誘の上で、非ムスリム同胞団メンバーに、党員資格を与えるということによって、内部では意見の対立が始まったのだ。
もし額面どおりに、同党の党規約を理解すると、ムスリム同胞団が結成した自由公正党が、非ムスリムも執行部のメンバーに、入れなければならなくなるからだ。そのようなことになると、ムスリム同胞団の、過去から現在に到る全ての機密書類が、彼らによって知られることになろう。
表面的には、女性もコプト・キリスト教徒も、執行部メンバーになることを、禁じないとしているが、そう簡単な話ではなかろう。このことが重大な問題となっているために、ムスリム同胞団はいま分裂の危機にある、とまで推測する専門家たちがいるのだ。権力に近づくということは、これまで発生しなかったような、各種の新たな問題を、生み出すということであろう。