トルコがいま非常に難しい、立場に立たされている。それは、リビアに対するNATOの対応に、どう関与するかということだ。トルコは唯一のイスラム教徒国家である、NATOのメンバー国だ。それだけに、ことはますます複雑になっている。
イスラム諸国やアラブ諸国の中では、今回のNATOによるリビアに対する攻撃は、石油資源を奪うことが第一目的であり、最終目的だとする捉え方が、一般的になっている。
つまり、NATO諸国が主張しているような、カダフィ軍による反政府国民を救うための攻撃、という論理は認められていないのだ。実際に、トラブルが始まった段階で、カダフィ大佐側が使ったのは、催涙弾でしかなかったのではないか。
それが結果的に、実弾や爆弾による攻撃に変わっている。その裏の事情について語られているのは、トルコがアメリカとカダフィ大佐の仲介を行い、カダフィ大佐が権力の座から降りることによって、この問題の解決を図ろうとしていたということだ。一説によれば、カダフィ大佐はそれを受け入れたのだが、NATOによる攻撃が開始されたことによって、全ては台無しになってしまった、ということだ。
いまトルコにとって問題なのは、リビアとの間に膨大な額に上る、大型プロジェクトの契約事業があるが、それが帳げしになるのではないかということと、未払い金が取れなくなるのではないか、ということであろう。
もう一つの問題は、リビア国内にはリビアの石油収入の御利益に与かろうと、リビアに出稼ぎに行った人たちが、いまだに80万人もいるということだ。もし、都市部への攻撃が激化すれば、彼らが空爆など軍事行動の、危険にさらされることと、やがては、食料や水が手に入らなくなる、可能性が高いということだ。
トルコはこうした事情から、リビア攻撃が持ち上がった段階で、真っ向から武力行使に反対してきた。そして、ついに軍を派遣することになるのだが、その目的はあくまでも、リビア沖でリビア向け兵器武器を積載した船の、リビアの港への接岸を、阻止することに限定している。
それとともに、あくまでもリビア攻撃が許容範囲を超えないように、トルコのギュル大統領はカダフィ大佐に対し、最高権力者の地位を降りるように、説得している。それは、リビアから出国することを含んでいようから、トルコはカダフィ大佐に対し、トルコへの亡命を、打診したのではないかと思われる。
トルコにとって、どうしても避けなければならないのは、リビアがこのNATO軍による攻撃の後、イラクと同じように外国軍によって占領され、国内では部族地域間の武力衝突が、継続することだ。これまでのプロセスを見ていると、リビアの今後が十分に、イラク同様のものになる、可能性があるからだ。