「イスラエルも中東動乱の例外国では無い」
今週の水曜日に、イスラエルが首都と定めているエルサレムで、7年ぶりに爆弾テロが起こった。被害状況について一人の婦人が死亡し、30人が負傷した、とイスラエル政府は発表している。
以前にも、エルサレムで大規模な爆弾テロが起こっているが、今回の爆弾テロとは異質なものだった。以前のテロは特攻テロであり、一人が爆弾とともに死亡し、多くの敵を殺害する形のものだったが、今回の場合はそうではなく、小型の爆弾を用い、その実行犯は逃走する、という形のテロだった。
そのことは同一犯人が、何度でも爆弾テロを実行できる性質の、犯行だということだ。それは決して、イスラエルを楽観視させるものではなかろう。
そもそも、今回のテロが起こる以前の状態は、どのようなものであったのだろうか。イスラエルの治安部はパレスチナ自治政府が、完全にイスラエルの言いなりに、パレスチナ人で危険な者は逮捕投獄する、という対応を採っていたことから、エルサレムとヨルダン川西岸地区は安全だ、とたかをくくってのではないか。
フェンスでイスラエルとパレスチナ側とを分けている、ゲートのチェック・ポイントでも、エルサレムの中心部でも、イスラエル治安部の監視は甘くなっており、治安対応は緩んでいた、という報告がある。
イスラエル政府はこうした、パレスチナ自治政府との馴れ合い関係が、出来上がっていたことから、ガザだけに治安の関心を、集中させていたのかもしれない。イスラエルの治安部は今回のテロ事件を受けて、アラート・レベルを最高の3に引き上げ、第一級の監視状態に変えたということだ。
しかし、それだけでは不十分だと思われる、ハマースとの間には公式非公式の交渉が行われており、ハマースはイスラエルへの攻撃を控えているが、イスラム・ジハード組織は全く攻撃姿勢を、緩めていないということだ。
このためハマースのイスマイル・ハニヤ首相は、イスラム・ジハードの書記長のアブドッラー・ラマダン・サーレハ氏に対し、イスラエルへの攻撃を手控えるように、要請したという情報もある。
しかし、イランが供与した高性能グラド・ロケット弾を手にしたイスラム・ジハード組織は、今後もイスラエルに対するグラド・ロケット弾攻撃を、継続する意向のようだ。この高性能グラド・ロケット弾は、ハマースがイスラエル攻撃に使っていた、手製ロケット弾とは異なり、イスラエル国内のビール・シェバまで、容易に到達してしまうのだ。
このパレスチナ側の動きを、イスラエルはどう受け止めるべきかについては、なんとも判断し難いのだが、あるいはイスラエルでも、中東のアラブ諸国で始まっていると同様の混乱が、スタートしたのかもしれない。この場合は権力側はイスラエルであり、抵抗側はパレスチナ人だ。
マハムード・アッバース議長が君臨するパレスチナ自治政府は、パレスチナ大衆から信頼を失なっているし、パレスチナ人の間には抑えきれない程の、不満が鬱積している。
こうした状態を考えると、今回エルサレムで起こったテロは、ガザばかりではなく、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の、武力による抵抗が始まる前兆かもしれない。その場合、いまのイスラエルには、十分な対応策があるとは、思えないのだが。
シリアはもちろんのこと、レバノンのヘズブラも、何時でもイスラエルを攻撃できる体制が整っている。そして、革命後のエジプト政府からは、大衆の不満爆発を防ぐためか、極めてハマースよりと思われる発言が、増えてきている、つい昨日も、エジプトのエルアラビー外相は、ガザに対するイスラエルの攻撃を、控えるよう警告している。
イスラエルにとって不安なのは、対話に応じ、穏健路線を採るように見せ始めたハマースが、今回のエルサレム・テロの背後にいるのではないか、ということだ。もし、ハマースとの部分的な信頼関係が崩れた場合、イスラエルは対応が益々困難になろう。イスラエルのシルバン・シャローム副首相は「武力衝突阻止の期間は過ぎた」と語っている。