イラクの主要な産油地帯は、クルド地区に隣接するキルクーク地区だ。これ以外にも、イラクの南部にも産油地帯があるのだが、何と言ってもキルクーク地区の産油量は、膨大なものであるだけに、誰がこのキルクーク地区を押さえるか、ということが大きな関心事になる。
イラクの内閣が誕生し、戦後の復興に本腰で、取り組める段階に入ったいま、この問題が先行きに、暗雲を漂わせ始めている。イラクの中央政府とクルド自治政府との間では、石油収入の分配については、イラク中央政府とクルド自治政府との間で、人口比で分配という合意が、出来ていたはずだ。
しかし、クルド自治政府側はこれまでの石油収入独占の状態から、石油収入の分配が現実化する段階に入ると、キルクーク地区の支配を強化する方向に、動き出したようだ。つまり、キルクーク地区の治安維持は、ペシュメルガ(クルド自治政府の軍隊)が担当する、と言い出したのだ。
そのことは述べるまでもなく、クルド自治政府がキルクーク地区の石油を、支配し続ける、という明確な意思表示であろう。現実に、キルクーク地区をクルド自治政府の軍隊である、ペシュメルガが担当することになれば、実質的に石油の輸出を、牛耳ることが出来るからだ。
クルド自治政府は何を根拠に、ペシュメルガがキルクーク地区の、治安を担当する、と主張しているのであろうか。実は、イラク中央政府とクルド自治政府との間では、ペシュメルガをイラク軍の一部とする合意が、出来ていたのだ。
そのことを根拠に、クルド自治政府はペシュメルガが、キルクーク地区の治安を担当することは、何ら法律的に問題ないはずだ、と主張するのであろう。
しかし、現実には莫大な石油利権が絡んでいるだけに、そうすんなりと行くとは思えない。今後、イラク中央政府とクルド自治政府との間に、問題が生じてくる、可能性があるということだ。
その場合、クルド自治政府はトルコに、支援を要請することになろう。イラク中央政府もまた、トルコに調停を依頼する可能性があろう。トルコには自分の側から動かなくとも、実に有利な立場が回ってくる、ということであろう。
もちろん、トルコがイラク中央政府と、クルド自治区政府との、調停に成功すれば、トルコはキルクーク地区の石油の権益の一部と、イラクの復興事業の相当部分を、確保することが出来る、ということではないか。
イラクの今後に、トルコはいやおう無しに、関わる度合いを強めていく、ということではないか。中東はトルコ主導の時代が、到来しているのだ、ということではないのか。