ナセルの時代から政治活動を禁止され、厳しい監視下に置かれてきたエジプトのムスリム同胞団が、今回の大衆蜂起で自由を得た。そして、ムスリム同胞団の著名なイスラム法学者ユーセフ・カルダーウイ師が50年ぶりで、カタールから帰国した。
ユーセフ・カルダーウイ氏の帰国は、歓迎に値するものであり、エジプト社会が大きく変化したことを、示す証左であろう。しかし、その後の様子を見ていると、将来に対する不安がよぎるのは、考えすぎであろうか。
ユーセフ・カルダーウイ師は、エジプト国民が集まり、政府に抗議し、遂に打倒にまでたどり着いた、シンボル的タハリール広場で、金曜礼拝を主導することになった。
その機会に、ユーセフ・カルダーウイ師とその側近は、エジプトの革命はいまだ終わっていないとし、革命を継続すべきだと訴えた。そして、ムバーラク大統領が指名したアハマド・シャフィーク首相を引き摺り下ろし、ムバーラク体制を打倒し、ムバーラクの政党を潰せと言ったのだ。
しかも、汚職に絡む者を逮捕し、裁判にかけるべきだ、とも主張している。なにやら、革命の後によくある、人民裁判を連想させるではないか。かつて、世界中で起こった革命のとき、革命成就の後、多くの人たちが証拠不十分のなかで、処刑されていった事例が少なくない。
しかも、ムスリム同胞団のメンバーの、ユーセフ・カルダーウイ師のガードたちは、今回の大衆蜂起の立役者だった、ワーイル・グナイム氏が、表彰台に登ることを阻止している。あたかも、彼らムスリム同胞団だけが、今回のムバーラク体制打倒の、立役者であるかのように、振る舞ったのだ。
他方では、軍に対し、最高の賛辞を述べ、おもねる態度を見せている。しかし、実際に権力を手にしたとき、軍の幹部も同様に、ムスリム同胞団の裁きを受ける対象になろう。
国民はいまこそ、ムスリム同胞団による、大衆蜂起の成果を奪う行為を、阻止すべきであろう。エジプトをイランにするな、と声を大にして訴えたい。