「小次郎敗れたり、ムバーラク大統領の巻き返し」

2011年2月 7日

 エジプトで2週間も続いている大衆蜂起が、ここにきてひと段落を、迎えた感がある。カイロからは普通の市民生活が再開された、と伝えられて来て、ホッとしている。

 さて、今の段階で、結論を語ることはどうかと思うが、あえて中間的な判断を、下してみたいと思う。ムバーラク大統領は最初、あわてたのであろう。それは無理からぬことだ。チュニジアのベン・アリ大統領が早い段階で、サウジアラビアに亡命し、あっさり大統領の地位を手放したからだ。

 次いで、ムバーラク大統領がエジプト国民向けに行った演説は、国民の側から見れば、ほとんど評価するに値しない、ものだったと言えよう。つまり、エジプト国民がいま抱えている問題の、解決に何も直結する提案が、なされていなかったからだ。

 しかし、彼はやはりベテランの、政治家であったのであろう。オマル・スレイマーン諜報長官を副大統領に据え、かつまた元空軍司令官のアハマド・シャフィーク氏を、首相に迎えることによって、盤石の体制を構築した。もちろんその裏には、タンターウイ国防大臣も控えていた。

 その上で、ムバーラク大統領は自身が、9月に大統領職から辞任する、と宣言し、エジプト国内の混乱を収拾し、カオスを生み出すことなく、後任に引き継たいと語った。まさに責任ある大統領の発言であろう。

 反体制側の多くの国民は、これらのムバーラク大統領の対応を、無言のうちに受け入れていたのではないか。あるいは、闘いに疲れ始めていたのかもしれない。オマル・スレイマーン副大統領の呼び掛けた、新体制作りの話し合いに、野党各党が応じたのだ。

 そのことは、野党各党、大衆の勝利であると同時に、ムバーラク大統領側の勝利でもあったろう。ムバーラク大統領はこれから新体制が成立するまで、大統領職に留まろう。ムバーラク大統領を絞首刑にしろ、ムバーラク大統領を国外追放しろ、という声はそうした中で、沈静化してきているのではないか。

 たとえ、今後野党側がムバーラク大統領の、即時辞任を叫んでも、これまで行ったような、大規模抗議行動は再開できないのではないか。戦いは、一気に本丸まで攻めなければ勝ち目がない。一旦沈静化してしまうと、大衆は闘いで被った怪我、損失を考慮することになり、再度熱く激しく燃え上がるのには、相当のエネルギーが必要であろう。

 エジプトの大衆蜂起の第一幕は、ムバーラク大統領の勝利に、終わったのではないか。もちろん、エジプトの大衆蜂起が第一幕だけで、終わるとは断言しないが。