エジプトで起こっている現象を、単純に捉えることは、到底出来そうにない。当初、1月末の外国出張でカイロ入りも予定していたのだが、イラクに滞在中、カイロ空港閉鎖の情報が入り、結果的にはエジプト訪問を、断念せざるを得なかった。
エジプトで今回起こっていることが、起こるであろうという予想は、付いていたが、現状を見ていると、今後の動向については、とても予測不可能ということになりそうだ。来年のことを語ると、鬼が笑うそうだが、いまエジプトのことを語れば、きっと鬼が腹を抱えて笑うだろう。
まず、ムバーラク大統領が追放されるのか、あるいは、まだ彼にはエジプトに残れる、可能性があるのか、ほぼ失脚あるいは国外逃亡が、確実だという証拠はない。その最大の理由は、アメリカ自身がエジプトにどう対応していいのか、いまだに判断が付いていないからだ。
ヒラリー・クリントン国務長官は軽々にも、チュニジアで変革が始まった時、チュニジア政府ではなく、国民の側でものを語っている。そのことが、チュニジア国内情勢の変革に、大きな影響を与えたものと思われる。
エジプトについては、オバマ大統領がムバーラク大統領に対して、大幅な政策変更を促し、次いでエジプト国民の側にあるといったニュアンスの発言を、繰り返している。
アメリカ政府は現段階で、ムバーラク大統領の政治を踏襲してくれる、親米の人物を後釜に、据えたいのであろうが、どうもその判断が正しくないようだ。アメリカの頭の中にいまあるのは、元IAEAの事務局長であったムハンマド・エルバラダイ氏、サーミー・アナ―ン参謀総長、オマル・スレイマーン現副大統領などであろう。
しかし、一説によると、ムハンマド・エルバラダイ氏とアメリカ政府の関係は、決して良くないということだ。ムスリム同胞団が彼を支持するような発言をし始めているが、それはムハンマド・エルバラダイ氏にはエジプト国内に何のバックも無いことから、近い将来彼を引きずり下ろして、権力を掌握するための作戦であろう。
サーミー・アナ―ン参謀総長はムバーラク大統領の次男ガマール氏と、特別な関係にあることは、エジプト国民の多くが知っている。したがって、彼が大統領に就任するとなれば、国民の間から猛反発が、起こる可能性が高い。
そしてオマル・スレイマーン副大統領だが、彼は諜報のトップとして、冷酷極まりない人物という評価が、エジプト国民の間では定着している。とても怒り狂ったエジプトの国民を、まとめていけるとは思えない。
アメリカはエジプト軍に、絶大な信頼を寄せていると語っているが、それはサーミー・アナ―ン参謀総長のことだろうか?つまり、アメリカには誰を裏から支援したらいいのか、分かっていないということではないか。
独裁政治が長く続くと、決まって後続の人物の選出に戸惑うことになる。それは有意な人材が、犠牲になり過ぎるからであろう。いまエジプト国民に誰が後継者にふさわしいかという質問を向けてみれば、誰もこれはと思う人物を、口にすることは出来ないだろう。
一時期、エジプト国民の絶大な支持を受けたために、ムバーラク大統領の嫉妬を買い、外相の座から追放され、アラブ連盟の事務局長に就任しているアムル・ムーサ氏が、最近、大統領のポストに対し、色気を出し始めている。しかし、エジプト国民はいまでも、彼を支持するだろうか。
世間ではエジプトのことを語る人士は少なくないが、実際に現地の情報を追いかけ、エジプトの国民性を知れば知るほど、逆に語れないというのが、真実ではないか。