チュニジアの政変の影響が、まるで鶏インフルエンザのように、アラブ世界に広がっている。第一に起こったのは、焼身自殺の流行だった。アルジェリアでもエジプトでも、多数の国民がチュニジアで起こった、焼身自殺を真似て、焼身自殺による抗議を行った。
続いて、ほぼ同時並行的に起こったのが、物価高、失業問題などに対する、抗議デモだった。これはアルジェリアを始めとし、ヨルダンでも起こっているし、オマーンやバハレーンでも起こったようだ。
そして遂に現れたかといえる、大事件と呼べる抗議は、「大統領の銀行口座を明らかにしろ。」という要求だった。チュニジアのベン・アリ大統領が失脚した後、スイスの銀行はいち早く凍結を発表し、ベン・アリ元大統領や彼の家族、側近が、引き出そうとしても、それが不可能な状態にしたのだ。
チュニジアでは、ベン・アリ元大統領自身ばかりではなく、家族や側近の財産、銀行口座についても、早晩調査が進められ、チュニジアの国庫に、返却されるものと思われる
エジプトでは焼身自殺による、抗議こそあったものの、いまだに大規模抗議デモは、起こっていない。しかし、エジプトの元企業家から、ムバーラク大統領と彼の家族、側近の銀行口座を調査し、その内容を公表しろ、という要求が出された。
この極めて危険かつ、厳しい要求を出した人物は、アシュラフ・サアド氏だ。彼はサアド投資会社の元社長であり、エジプト社会ではしかるべき、知名度も有する人物だったろう。このような要求を公に出したことは、彼アシュラフ・サアド氏が逮捕され、投獄されることを、覚悟したうえでのものであろう。
エジプト政府はチュニジアの変革の後、影響は無いと平穏を装っているが、必ずしもそうではないだろう。内心では相当に、動揺が大きくなっているものと思われる。家族や側近ばかりではなく、ムバーラク大統領自身も、その例外ではあるまい。
アシュラフ・サアド氏は、この銀行口座開示の要求のなかで、特にUBS(スイスに本部のある投資銀行)の口座を、徹底的に調べて報告するべきだ、と語っている。その上で、ムバーラク関連名義の口座を、世界中の銀行口座から、調べろというのだ。
ムバーラク大統領が打倒されるまでは、もちろん、そのようなことが、実現するはずは無いが、今回のアシュラフ・サアド氏の要求は、少なからぬ動揺を、エジプト政府と国民、そしてムバーラク・ファミリーに与えるであろう。