「アラブで伝染する反政府の抗議焼身自殺」

2011年1月18日

 大学を卒業したが就職がなく、路上で野菜売りをしていた青年、ムハンマド・ボアジジ氏が政府の政策に抗議し、焼身自殺を図った。そのことが、大衆の間に伝わり、いち地方都市で起こった焼身自殺が、チュニジア全体に火をつけることとなり、結果的には、ベン・アリ体制が打倒された。

 このチュニジアで起こった焼身自殺は、体制を打倒する起爆剤として、極めて有効だという認識が、一部のアラブ人の間で、広がったのであろうか。ムハンマド・ボアジジ青年に続いて、焼身自殺を試みる人たちが、その後、軒並みに登場した。

 エジプトでは議会ビルの前で、反政府のスローガンを叫び、イスマイリヤ市でレストランを経営している、アブドルモナイム・カーメル氏50歳が、焼身自殺を試みたが、一命を取り留めている。彼には4人の子供がいたのだ。

 アルジェリアからは4人が焼身自殺および、自殺未遂と伝えられている。サヌーシー・トウアト氏がモスタガーネム市で、モフセン・ボウテルフィフィ氏はテベッサ県で、アオウチア・ムハンマド氏はジジェリ市で、といった具合に焼身自殺事件が、連続して起こっているのだ。

 モーリタニアでも、会社の部長(社長)ヤーコウブ・オウルド・ダ―ウード氏が焼身自殺している。彼の場合は、政府が企業への融資、便宜供与に協力してくれなかったことが、抗議の内容だと伝えられている。

 彼らの問題の核心のほとんどが、失業、物価高騰による生活困窮ということのようだが、あまりにも多くの人たちが、焼身自殺することに、驚きを禁じ得ない。イスラム教徒にとって、自殺は罪悪であり、焼身自殺は最も罪深い行為であることは、述べるまでもない。

 そうまでもしなければ、体制を覚醒させることも、打倒することも、出来ないということであろうか。

 日本では、年間3万人を超える自殺者が出ている、と報告されているが、イスラム世界でも、今後、自殺が増えていくのではないか。生きることの困難は、述べるまでも無かろうが、だからと言って、死を選択肢に選ぶということは、あまりにも短慮な気がしないわけでもない。一度深呼吸をして、考えなおす時間を、持つべきではないのか。