チュニジアで23年間、大統領の座に就いていたベン・アリ氏が、国民の抵抗の前に、遂に国外逃亡を図って、権力の終焉を迎えた。彼と彼の家族の亡命は、サウジアラビアが受け入れた。
サウジアラビアは今まで、何人もの国家元首の亡命を、認めて来た国だ、スーダンのヌメイリ元大統領や、ウガンダのアイデ・アミン元大統領も、サウジアラビアに逃れている。
さて、今回のチュニジアの政変劇は、これで一応終わりだろうが、その影響が何処の国に及ぶか、ということが次の関心事であろう。
チュニジアで国民の反政府運動が起こった原因は、物価高、失業、汚職が主な理由だったが、この三つの問題は、他のアラブ諸国でも発生している問題だ。物価高は世界的な傾向であり、政府が主たる原因とは言い難い。もちろん、その対策に問題があったと言えば、そう言えないことも無い。
失業については、何らかの手を打つことが、ある程度は考えられたであろう。しかし、公共事業でそれを解消するには、資金が足りない、という問題がろう。公共事業資金は、アラブのなかの湾岸諸国を始めとした、産油諸国がある程度、支援できたのではないか、と思われるが、一時期叫ばれていたような、「アラブはひとつ」という意識は、アラブ諸国間では相当薄らいできており、なかなかそうも行かないようだ。
汚職については、体制が長期化すれば、自然発生的に出てくるものであろう。程度の差こそあれ、それは日本ですら起こっているのだから、途上国では無理からぬことであろう。それが、今回は限度をはるかに超え、国民の我慢の限界を、超えていたということであろう。
チュニジアの変革の影響を、最も強く受けるであろうアラブの国々は、石油やガス生産の無い、あるいは少ない、経済的に厳しい国々ということになる。そして長期政権の国ということになろう。
そこで考えられるのは、第一にエジプトであろう。そして、ヨルダン、シリア、バハレーン、アルジェリア、モロッコなどであろう。もちろん、これらの国々の体制が、チュニジア同様に、明日にでも転覆するだろう、とは言うつもりはない。危険性が他に比べて、高いということだ。
リビアのカダフィ大佐は、今回のチュニジアの政変劇を見て「問題は人民による、民主的な統治のイデオロギーが、存在しないからだ。また、しかるべき人物が権力の座にいないからだ。」と揶揄している。
カダフィ大佐が言わんとするところは、彼の考えた第三理論(グリーン・ブック)、つまり人民による直接統治の、システムが必要であり、カダフィ大佐のような人物が、それを主導する地位に就いていなければならない、ということであろう。
アルジェリアやヨルダンでは、既に、失業問題や物価高に対する不満が、大衆による反政府行動として、起こり始めている。ヨルダンではリファイ首相の辞任を求める声が、既に出ているのだ。
エジプトでは何度と無く、大衆の反政府行動が起こり、鎮圧されてきているし、バハレーンも同様の状況にある。この社会不安、体制不安のトレンドを止めるには、湾岸産油諸国の支援が、どうしても必要であろう。
「アラブはひとつ」というスローガンによるのではなく、相互の体制維持の上から、アラブ諸国は協力し合わなければ、ならないのではないか。しかし、それは今になっては、砂漠の蜃気楼なのかもしれない。
アラブ諸国は独立して以来、既に長い時間が経過し、個々の国家意識が、定着しているからだ。そうである以上、チュニジアで起こった現象は、他のアラブ諸国でも起こりうるし、前兆としての各国の不安定化は、避けられない傾向ではないか。