中東の国々にとって、2011年がどのような年になるのかを、予想してみる。もちろん、当たるも八卦あたらぬも八卦だが、それなりの根拠が無いわけでもない。転ばぬ先の杖と考えて、読み流して頂きたい。
1:イラククルド自立
2003年のアメリカ軍の侵攻と、支配が続くなかで、イラクはいまだに混乱の最中にある。そうしたイラクの中にあって、クルド地区は独自の安定、と繁栄を享受している。
クルド地区の首都ともいえるエルビルは、トルコ企業の進出で、様相を一変し、先進国の都市を髣髴させる感がある。エルビルの街の中には、スペイン村、アメリカ村、ヨーロッパ村という名前が付けられた、近代都市が林立しているのだ。
このクルド地区の繁栄は、イラクの石油がイラク北部クルド地区に、集中して埋蔵されていることによる。その石油の利益を、ほぼ独占する形で、手にしているのが、バルザーニ氏が率いる、クルド地区なのだ。
今後、イラク中央政府が安定化に向かうなかで、バルザーニ氏を始めとする、クルド地区の指導者たちは、石油資源の独占をどう継続していくか、ということに腐心しよう。その場合、一番簡単に予測できることは、クルド地区の自治権の確立であろう。
2:チュニジア混迷
1987年の9月大統領に就任して以来、、独裁色の強いベン・アリ体制に、疲労感が出始めている。チュニジア国内は今後、反体制組織やイスラム原理主義の動きが、活発化してくるものと予想される。
3:リビア後継闘争
カダフィ大佐を知るリビア人の友人が「カダフィ大佐も歳だなあ。最近は昔ほどの元気が、無いような気がするよ。」と語っていた。事実そうであろう、彼も70歳に達する年齢であり、昔のような元気は無くなってきているはずだ。
時折見せる革命当時のようは奇行も、あくまでもゼスチュアであって、実際のものとは思えない。
そうなってくると、後継者問題が当然のこととして、浮き上がってくる。現段階では、サイフ・ル・イスラーム氏が最有力視されているが、カダフィ大佐のもう一人の息子、ムウタシム氏も負けてはいない。
ムウタシム氏は軍を掌握していることに加え(リビア国家治安のトップ)、カダフィ大佐と共に、革命を起こした革命評議会メンバーと、彼らの第二世代が、彼を推しているようだ。
加えて、ハミース氏も軍を押さえていることから、後継争いに介入してくることが予想される。こうしてみると、リビアはこの一年、国内の権力闘争が、顕在化してくるのではないか。
4:エジプト大統領選挙
2011年の9月には、エジプトで大統領選挙が、実施される予定だ。現段階では、ムバーラク大統領が、もう一期大統領職に留まる、という予測がほとんどだ。つまり、ムバーラク大統領は終身大統領、ということであろう。
もちろん、ムバーラク大統領が高齢であり、昨年はドイツで手術を受けたこともあり、体力的な問題はある。そうなると、突然の大統領辞任ということもありえようし、大統領選挙に立候補しない、ということもありえよう。
ムバーラク大統領に次いで、大統領候補とされているのがガマール氏だが、エジプト軍は彼の大統領職の、後継に反対している。たとえ、ムバーラク大統領が立候補を取り下げて、彼がマール氏を立てたとしても、すんなりとは行かないかもしれない。
こうした中で、エジプトの庶民の間で人気の高かった、アムル・ムーサ・アラブ連盟事務総長や、全く人気の無い、オマル・スレイマーン情報長官の名前を、後継者の候補として挙げているが、これも極めて不確かな話であろう。
2010年に行われた選挙では、与党の強引なやりくちが話題となったが、今年は、益々エジプトの内政が、熱くなる年であろう。そのことは、エジプトが中東政治で果たす役割が、半減するということであろう。それは、アラブ全体が混迷の度を、増すということだ。
5:サウジの民主化
ウイキリークスが伝えたところによれば、サウジアラビアの港町ジェッダでは、夜な夜な秘密のパーテイが、王族によって開かれているということだ。そのパーテイでは、酒がふんだんに振舞われ、売春婦も出入りしているということだ。
こうしたことは、以前からあったのであろうが、最近、それが暴露されたということは、サウジアラビアの国内に、少なからぬ衝撃を与えたことであろう。サウジアラビアの王家は、単に王家だけではなく、世界2億のムスリムのリーダーなのだ。サウジアラビア国王は、メッカとメジナという、二つの聖地の守護者でもあるのだから、それなりの生活スタイルが、王家の一員たちにも、要求されよう。
サウジアラビアでは、こうした王族による不品行だけではなく、一般庶民の若者の間でも、西側諸国の真似をする者が、増えているようだ。携帯電話の普及や、インターネットの普及が、それに拍車をかけていると思われる。
サウジアラビアでは、原理主義の動きと相対して、民主化、近代化を求める動きが、不特定の若者たちによって、拡大しそうだ。
6:イラン混迷
イランではいまだに、2009年の大統領選挙結果が、尾を引いている。昨年末には、政府によって大統領候補者への、締め付けが行われ、ムサヴィ候補とカロウビ候補は、国外に出られなくなったし、彼らを支持した、ハタミ師も国外に、出られなくなっているようだ。
ノ―ベル平和賞を受賞した、エバデイ女史の場合は、脱税を口実に、財産の差し押さえがあったようだ。エバデイ女史は国外におり、彼女の外国での活動は、制約を受けずに済みそうだが、やはり痛手ではあろう。
イランでは最近、外国の組織によると見られる、テロが連続して起こっている。敵が明確なものは、アフガニスタンとの国境に近い場所から侵入してくる、ジェイシュ・ル・イスラーム組織によるものであり、敵が不明なものは、イランの核科学者を狙った、暗殺テロの実行者たちによるものだ。
イランの核開発は、コンピュータ-・ウイルスによるサイバー・テロで、相当遅れるようだが、だからと言って、イランの核開発に対する不安が、消えたわけではない。そうであるとすれば、今年もイランは、国内外からの種々の攻撃に、さらされることになろう。
7:トルコ成長
トルコはギュル大統領、エルドアン首相、ダウトール外相の3人による、トロイカ体制がうまく機能しており、当分、内外ともに安定していくのではないか。その認識はトルコの、あらゆる層の人たちが、認めるところだ。
自信のあるトルコの、この3人は勇敢でもある。最近では、ギュル大統領がクルド人が住民の多数を占める、デヤルバクル市を訪問している。クルド問題の解決が、トルコ全体の景気浮揚の、根幹だと認識しているようだ。
今年、トルコでは国会議員選挙が、予定されているが、その選挙結果は、与党AKPが勝利拡大するもの、と予想されている。そうなれば、益々、トルコは外交、内政、経済政策と力を発揮していき、地域の大国、リーダー国となっていこう。
8:スーダン分離
スーダンは南北で分離が明確になる年ではないか。
9:ヨルダン王家の苦悩
パレスチナ問題の混迷は、ヨルダンにとって、大きな負担となるだろう。マハムード・アッバース議長が進める、アメリカの仲介による、イスラエルとの交渉は、昨年も何の結論も出さなかった。
その反面、ヨルダン川西岸地区への、イスラエルの入植の拡大、東エルサレムのパレスチナ人住宅の破壊と、住民の追放があり、パレスチナ大衆の間には、不満が増している。
今年は、ヨルダン川西岸地区からの、イスラエルに対するテロが、頻発するのではないか、と思われるが、それに伴って、イスラエルによってヨルダン川西岸地区から、追放されるパレスチナ人が、ヨルダンに向かうのではないかと思われる。
ヨルダン国内では、イスラム原理主義者や,パレスチナ人による、ヨルダン政府に対する突き上げがあり、ヨルダン王家は窮地に、立たされるのではないか。既に、ヨルダンではイスラム系政治組織が、政府と何度と無く対立しているのだ。
10:イスラエル不安
イスラエルにとっては、レバノンのヘズブラ、パレスチナ・ガザ地区のハマース、シリア、そしてイランが仮想敵だ。そのいずれも、最近では力を増してきているのではないか。
ハマースについては、ロケット弾のほとんどを、撃ち尽くしたために、攻撃は緩和するだろう、という予測がなされているが、ハマースがそれほど単純だとは、信じがたい、彼らはいまだに武器を隠匿している、と考えるべきではないか。
ヨルダン川西岸地区での、ハマースの動きが、活発化してきているし、マハムード・アッバース議長の膝元の、ファタハのメンバーですら、イスラエルに対する攻撃を、渇望している。パレスチナ問題はいま、大きな壁に突き当たっているのだ。
こうした危険な状況の中で、イスラエルは内部対立が激化し、政府要人の責任逃れが目立っている。徴兵制度についても、宗教学生が免除されるということに、一般の若者が不満を、述べ始めてもいる。つまり、政府も若者も、イスラエルを守ることに、真剣に取り組まなくなって、きているということだ。
イスラエルの最大の敵は、イランの核兵器でも、ヘズブラのミサイルでも、ハマースのロケット弾でもない、イスラエル自身なのだ。