エジプト出身で、IAEAの事務局長を務めた、ムハンマド・エルバラダイ氏が任を離れ、帰国した後で、エジプトの民主化運動を始めた。憲法を改正し、誰でも大統領に立候補できる状態を、生み出そうと呼びかけた。
彼の提案は、エジプト国民の間で広く支持され、それに伴った民主化運動が、沸き起こった。結果は、何人もの死者と負傷者、逮捕者を出すというものだった。エジプト人の友人たちに聞くと、ムハンマド・エルバラダイ氏は、肝心な段階になると、外国に出てしまい、継続してエジプト国民と、民主化運動をしていたのでは無いということだ。
つまり、インテリがよくやる、社会派的な見せ掛けの、運動でしかなかった、ということであろう。長い間エジプトを離れていた彼は、エジプトの実情を正しく理解していなかったし、エジプト国内での、政治運動の危険さも、分かっていなかったということだ。
彼は民主化運動の半ばで、11月に予定されていた、国会議員選挙をボイコットするよう、呼びかけたが、結果的には、野党各党から無視された。その後、政府が進めた強硬策を受け、ムスリム同胞団の候補者たちは、第二段階の選挙を、ボイコットしたが、ムハンマド・エルバラダイ氏は、その段階でまた、自分が行った選挙のボイコット提案が、正しかったと主張した。
外野の立場から見ていると、ムハンマド・エルバラダイ氏の言動は、どうも「エーカッコシー」のゼスチュアでしかないように、思えてならない。それがゼスチュアで終われば、何も問題は無いのだが、多数の死傷者が出、多くの逮捕者が出るのでは、そうばかりも言ってはいられまい。その人たちの家族に、ムハンマド・エルバラダイ氏は何と言って説明するのだろうか。もちろん、彼には、言い訳もお詫びの言葉も、口にする気はあるまいが。
ムハンマド・エルバラダイ氏の、いわば無責任な言動は、心ある人を怒らせたのではないか。
「ムハンマド・エルバラダイ氏を殺せ」というファトワ(宗教裁定)がエジプトの聖職者によって発せられた。その聖職者の名前はシェイク・マハムード・アーメル師だ。彼はダマンフール県の「アンサールスンナ・アルムハンマデーヤ」という組織のリーダーだ。
彼の主張するところは「権力を誹謗し大衆を煽る事は、イスラムの教えに反する。」という見解のようだ。
もちろん、このファトワ(宗教裁定)に対して、イスラム学の権威である、アズハル大学の学者たちから、反発が生まれている。彼の解釈は、イスラム法に照らし合わせて判断すると、間違いだということだ。アズハル大学の学者たちは「イスラム教は血を流すことの正当性を、容易には認めない。」とも語っている。
シェイク・マハムード・アーメル師の主張は、案外大衆の間で受け入れられるのではないか。もちろん、それは少数派ではあろうが。その場合、ムハンマド・エルバラダイ氏のエジプト国内での政治活動、民主活動は、先細りしていくのではないか。それでほくそ笑むのは誰か?