「民間の支援先細りとエジプトの将来不安」

2010年12月19日


 これまで何度も書いてきたように、エジプトも世界の例に漏れず、経済不安が益々色濃くなってきている。そのなかで起こっているインフレは、相当なもので、一例を挙げれば、肉の値段は過去3~4年で5倍程度に値上がりしているということだ。

最低賃金が300ポンドから、500ポンドに引き上げられたものの、肉の値段が1キロあたり120ポンド程度だから、庶民の口に肉料理が入ることは、極めてまれであろう。数ヶ月、あるいは1年間肉を食べられなかった家庭も、出現しているのだ。 

そうした最貧困家庭に対し、政府は特別な措置をとらずに、これまで放置してきていたのだが、エジプトでは通常暴発が起こる段階に、到っていたにもかかわらず、暴動が起こることは無かった。

それは高所得者たちが、民間のレベルで、貧困家庭に対する救済活動を、展開してきていたからだ。何十とある民間の支援団体が、金持ち層や企業に働きかけて、寄付金を集め、支援活動を行っていたのだ。

そのなかで、よく知られている活動として、フード・ボックスの配給というのがある。段ボール箱に食用油、砂糖、紅茶、塩、米などを入れて、貧困家庭に配るというものだ。

その結果、最貧困の家庭でも、食料の確保が出来、エジプト国内では餓死者が出ないだけではなく、逆に働かなくても、食べていける状況が、発生したほどだ。支援のための寄付金を出す側の友人は「これでは貧困者は、その状況から抜け出そう、と努力しなくなる。支援も考えものだ。」とぼやいていた。

しかし、最近の益々の経済不況により、エジプトの金持ち層も、寄付金を出し渋り始め、寄付金額を減らし始めている。これまでのように、大盤振る舞いし続けることが、困難な状況に入って来ているのだ。

そうなると、予測しなければならないのは、エジプト社会で突然暴動が、起こるということだ。その暴動は、誰に指揮されて起こる、という性格のものではないだけに、突発的に、予想できない場所で起こり、たちまちエジプト全土に、広がる可能性が高いのだ。

その突発的に起こるかもしれない暴動への不安を、多くのエジプト国民は期待し、かつ恐れている。期待は体制の崩壊と、よりよい社会の再構築であり、恐怖はその暴動に巻き込まれて、自分や家族が犠牲になることであろう。

11月にエジプトで行われた選挙で、政府側のあわてぶりが目立ったのは、こうした危険に対する、恐怖からではなかったのか。もちろん、ムバーラク大統領の後継をめぐる問題も、根底にはあったのだが。