「エジプト選挙の内幕」

2010年12月19日


 インターネットがこれだけ発達し、普及しているとは言え、やはり情報は現地に出向き、自分の耳で聞き、自分の目で直接見て確かめなければ、その詳細はわからないようだ。

アメリカが最近、外国の情勢に対する判断を間違え、その間違いを軍事力でカバーするために、世界各地で犠牲が拡大しているのは、ヒューミント軽視の傾向が、アメリカの情報機関の中に、あるからであろう。

11月に行われたエジプトの選挙は、世界中が注目し、選挙後には世界中から、非難の声が上がった。それだけエジプトの与党は、力づくで選挙を行った、ということであろう。

選挙結果は、国会議席の88パーセントを、与党の候補者が獲得する、というものだった。この選挙結果に対する批判に対し、与党は世俗的野党も、当選している、と内外の非難に反論している。

では実態はどうであったのだろうか。与党の候補者が、88パーセントの議席を獲得し、残り12パーセントを野党や、単独立候補者が占めたことになっているのだが、実態はそうではない。

12パーセントの当選者のうちの、10パーセントは単独立候補者、ということになっているが、彼らのほとんどは、与党の隠れ候補者だったのだ。彼らは地域によっては、野党支持者が多かったために、与党の候補者としてではなく、単独の独立候補者として立候補したに過ぎないのだ。

つまり、現在の状況では、与党の当選者88パーセントに加え、10パーセントの当選者が、与党ということになる。したがって、98パーセントの議席が、与党によって占められたということだ。

 これでは国会の運営で、与党の提案が通過しないことは無い、ということであり、エジプトは単独政党、単独政府という形に、なったということであろう。それは民主主義の立場からすれば、逆行現象だということになる、と批判するエジプトの識者は少なくない。

 選挙時には政府が、野党の選挙宣伝で、テレビを使わせないとか、テレビのコメンテーターで与党批判の人物、どんどん番組から外された、ということに加え、立候補希望者に対する暴力や邪魔、そして立候補届け出時における、種々の強要があったとも言われている。

 極めつけは投票所に、これまでは監視のための判事を、派遣していたのだが、今回は判事の派遣は行わなかった。その結果、立候補者が選挙管理委員に金を渡し、投票用紙に自分の名前を書かせ、投票させていたということだ。その実態はツイッターで流され、多くの人たちの、知るところとなっている。

 加えて、与党は同一選挙区で、定員を超える立候補者を立候補させ、与党の候補者からも、多数の落選者が出た。結果的に、これらの候補者は、大金を使ったにもかかわらず、議席を獲得することが出来なかった。

 この結果、いまエジプトでは、与党内部に軋轢が生じて、内部対立が激しくなるだろう、と予測するインテリが少なくない。物価の値上がり、生活苦、経済の悪化、エジプトのアラブ諸国内における、政治的指導力の低下など、多くの問題が重なり、近い将来、この国に大きな変化の波が、襲い掛かってくるのではないか。そう予測し、不安をつのらせている、エジプトのインテリの数は少なくない。