先に行われたエジプトの国会議員選挙では、政府の野党立候補者に対するネガテイブ・キャンペーンがあり、野党に対する選挙活動への締め付けが厳しかったことと重なり、結果は与党がほぼ全勝で議席を確保した。
何百人という数の野党立候補者や、その支持者たちが逮捕された、というニュースも流れてきた。それは事実であろう。それほど政府の野党に対する締め付けが厳しかったということだ。
それは裏返して言うと、政府与党はいま、極めて厳しい状況にあるということではないのか。確かに、ムバーラク体制はゆるぎないものであるが、一旦ムバーラク大統領の健康に問題が生じた場合、状況は一機に逆転してしまう、危険性がある。
次期大統領選挙では、ムバーラク大統領の続投が、与党の一致した意見となっており、ムバーラク大統領自身も、終身大統領として、死ぬまでその職を守り通す気であろう。彼以外には、与党内にエジプトをリードするにふさわしい人物が、いないということだ。
今回の選挙後、野党の多くは、次の国会議員選挙をボイコットする、と言い始めているが、もしそうなれば、エジプトに野党不在の国会が、成立するということだ。以前大統領選挙に立候補するのではないか、といわれていた、ムハンマド・エルバラダイ氏は国会議員選挙を、ボイコットするよう野党各党に、働きかけていた。
その当時、野党各党はムハンマド・エルバラダイ氏の提案を無視したが、今回の選挙結果を見て愕然とし、次回選挙をボイコットする方向で動いている。野党各党が選挙をボイコットし、国会に議員を送り出さなくなれば、エジプト政府は世界から非民主的と、非難されることになろう。
しかし、その非難がエジプトに変化をもたらし、民主化させるのだろうか。この点をエジプトの与党支持者の、インテリの友人に問い質すと、彼はそれがどうしたという感じで、次のような答えを出してくれた。
「エジプトはナセル革命の前は王制だった、そしてナセルが大衆のための革命を起こし成功し、アラブ社会主義というシステムを打ち立てた。そのシステムの下では、単一政党で国会が運営されてきたのだ。エジプトの政治に多党制が持ち込まれたのは、大統領がナセルからサダトに代わってからだ。
そして、それがムバーラク体制でも、引き継がれたのだが、ここに来てそれが、元の単一政党による国会運営に戻っても、何も驚くことは無い。エジプトも世界経済悪化の例外ではない。強いリーダーの下に、強力な政府が国家の運営をスムーズにする必要があるだろう。」それも一理あろう。
それを歴氏の逆行と見るか、緊急措置と見るか、意見の分かれるところであろう。いずれにしろ、ムバーラク大統領の後を継ぐ、大統領の後継問題は、エジプトが抱える最大の危機といえそうだ。そのために、今回の国会議員選挙で、強力な締め付け策が用いられた、と見るべきであろう。
その結果は、エジプトに安定をもたらすのか、その逆になるか、まさにアッラーの知るところであろう。