「ウイキリークス騒動とそのカラクリ」

2010年11月30日


 アメリカの外交文書が、インターネットを通じて、世界にばらまかれた。その量が25万件を超えるものだけに、大きなショックを世界中で起こしている。あるものは、各国トップに対する、評価や悪口であり、無責任に読んでいる分には、結構笑える代物だ。

たとえば、北朝鮮の金正日総書記については、肉のたるんだ老人と表現し、イタリアのベルルスコーニ首相については、無能な人物と評している。また、フランスのサルコジ大統領については、プライドだけが高い男、イランのアハマド・ネジャド大統領については、ヒトラーのような人物としている。

こうした人物評は、当事者にしてみれば不愉快ではあっても、それほど大きな問題ではあるまい。しかし、一国の大統領や国王が他国について言及している場合は、両国間の関係を大きく損ねる、危険性がある。

たとえば、サウジアラビアのアブドッラー国王が、イランの首をはねろと言ったとする部分は、イラン側にとって、極めて不愉快であろうし、サウジアラビア政府を信頼できなくなる、危険性がある。

アハマド・ネジャド大統領はウイキリークスの流した情報(?)は、気にしないと軽く受け流しているし、他のイラン高官は、これはしかるべき意図があって、やっていることだ。その意図とは、中東諸国関係を破壊することだ、中東の敵が、ウイキリークスの背後にいる、と語っている。

サウジアラビア政府はウイキリークスについて、気にしないとしているが、他の湾岸諸国は、いまのところ沈黙している。それはサウジアラビアのアブドッラー国王の発言とされる部分が、イランとの関係を危ういものにする、という懸念からであろうか。あるいはばからしくて、問題にならないということであろうか。

トルコについては、エルドアン首相は単に、イスラエルが嫌いな、イスラム主義者だと評し、ダウトール外相については、危険人物と評している。トルコ政府はウイキリークスに、何か不明な点がある、と考えているのであろう、疑問だとコメントしている。

それと同じような反応は、ドイツの週刊誌デルシュピーゲルも出している。ウイキリークスの裏には、秘密のエレクトロニクス・グループが、存在しているだろう、と報じている。この雑誌の記事を読んでいないので、何とも言いようがないが、そのエレクトロニクス・グループなるものが国家なのか、あるいは各国間にまたがる組織なのかについては、考えてみる必要がありそうだ。

興味深いのは、アメリカのクリントン国務長官が、少しだけウイキリークスの情報漏洩に付いて、ポジテイブに語っていることだ。つまり、このウイキリークスによる秘密情報の漏洩によって、世界中がイランの核について、強い懸念を抱いていることが、明らかになったという点だ。もちろん、彼女は2度とこのようなことがあってはならない、と強調してもいる。

アメリカ政府の膨大な機密情報が、一気に漏洩されたことで、世界中が大騒ぎになっていることは 確かなようだが、冷静に考えると、公開されている情報は 比較的安全な範囲内の ものではないのか。少なくとも このことによってアメリカが大損害を被ったり、危険が増大することは 無いように思えるのだが。