まさに老骨に鞭打って、エジプトのムバーラク大統領が、湾岸諸国を歴訪した。その目的は、多分に石油で潤う湾岸諸国に対して、金の無心をしに,行ったのだろうと噂されている。
それはほぼ正解であろう。エジプトはいま、経済悪化のなかで、ますます貧富の差が広がり、何時暴発しても不思議ではない状態にあるからだ。それが国会議員選挙と重なり、エジプト国内各地で、衝突が起こっている。
しかし、ムバーラク大統領の湾岸歴訪は、金の無心ばかりでは、なかったようだ。ムバーラク大統領と湾岸各国首脳との話し合いの内容は、詳細に付いて知ることは出来ないが、彼が最後の訪問国バハレーンの予定を終えた後行った記者会見で、極めて危険な内容の、発言をしているのだ。
ムバーラク大統領はパレスチナ自治政府に対し、一日も早いイスラエルとの和平交渉の、再開を呼びかけている。彼はおおよそ、次のような内容の発言をしているのだ。
「パレスチナ政府がイスラエルとの和平交渉を、一日でも早く再開しなければ、イスラエル側は西岸地区の全域を、入植地にしてしまうだろう。そうなれば、パレスチナ政府がパレスチナの建国を決意したときに、建国すべき土地がなくなってしまうということだ。」
これはとんでもないことなのだ。アラブをリードするエジプトの大統領が「イスラエル政府の意図は、全てのパレスチナの土地を奪うことだ。」と語っているのだ。そして、それを阻止する唯一の手段は、アメリカの仲介によって、イスラエルとの和平交渉を、再開することだというのだ。
確かに、アメリカの仲介による交渉の最中も、和平交渉が中断している時期も、イスラエルはアメリカの入植凍結要請を聞き流し、政府の方針ではなく、あくまでも民間の動きとして、次々と入植地の建設を進めている。
最近、日本を訪問したパレスチナ自治政府首相に対し、官総理はお土産として、1億ドルの援助を約束したようだが、実はそれがかえって、パレスチナ国家の設立の、足かせになっていることに、気が付いていないようだ。
パレスチナ自治政府は「和平、和平」「パレスチナの権利」と口にしながら、交渉再開に種々の条件を突きつけて、前進を阻んでいる。パレスチナ問題は解決しないほうが、世界から援助を受けられ、豪奢安楽な生活が、パレスチナ自治政府幹部には約束されるのだ。
しかし、最後に気が付いたとき、彼らには建国する土地が、残されていないという、もうひとつの現実がある。その危険をムバーラク大統領は語ったのだ。