世界中がいま激変の嵐のなかにある。金持ちが突然文無しになり、貧乏国が大金持ち国家になるということは、既にどなたも目の当たりにしているだろう。BRICSと呼ばれる途上国が、最近では欧米に比べ、経済状況が改善してきている。
激変はこうした成功組は別として、世界中の人たちを、不安に陥れているのではないだろうか。こうした経済的激変は、結果的に政治の激変や、社会の不安定化を生む。そうなると台頭してくるのは、偏狭なナショナリズムだ。
アメリカのユダヤ人やヨーロッパのユダヤ人は、こうした状況のなかで、過去の歴史を思い起こしているのであろう。激変の時や不況の時に、ユダヤ人は常に標的にされてきたからだ。
ロシアのポグロム、ドイツを始め周辺諸国で起こった、ユダヤ人に対する締め付けを知らない人は、ほとんどいないだろう。最近もルーマニアから、1941年頃に多数のユダヤ人が殺害され、その発掘調査が行われている、というニュースが伝わってきた。
こうした世界的な雰囲気のなかで、あるユダヤ人が、ユダヤ人にとって最も危険なものは、シオニズムという考えだと言い出している。この考え方は、ユダヤ原理主義者たちの間では、以前から語られてきたことだ。一部ユダヤ原理主義者は、イスラエル国家の建設そのものが、ユダヤ教に反するものだ、とさえ主張しているのだ。
このシオニズムはユダヤ教徒にとって危険だ、と主張している人物は、実は過去にユダヤ人が中東で、危険な状況に追い込まれたことは、無かったというのだ。たとえば、1967年に起こった第三次中東戦争について、当時エジプトのナセル大統領は、イスラエルと戦争することを、考えていなかったというのだ。
彼は具体的に、当時のイスラエルの首相や、外相、情報担当者などの証言を並べ、ナセル大統領には開戦意志がなかったし、イスラエル側にも無かった。しかし、結果的には戦争が、勃発したと説明している。
シオニズムが常に敵を作り、イスラエル領土の拡張を、進めてきたということであろう。この意見がいま出てくるのは、イスラエルのネタニヤフ首相が進める、中東和平に対する実質的な、完全拒否の立場について、危機感を抱いているからではないか。
現在、ネタニヤフ首相はヨルダン川西岸地区や、東エルサレムでのパレスチナ人追い出しと、入植地の建設を黙認し、あるいは奨励している。しかし、その政策は結果的に、イスラエルのユダヤ人ばかりではなく、世界中のユダヤ人を、危険に晒すことになるというのだ。
世界の状況は既にその段階に、入っているのではないか。世界のマスコミや各種団体、国際組織が、次第にイスラエル非難を、強めてきているのは事実であろう。それが非難の段階を通り過ぎると、明確な反ユダヤの動きが始まる可能性を否定できない。
いまのうちに、理性的な平和を望むユダヤ人が、イスラエルに対して攻撃的な政策を、採ることをやめるよう、助言すべきなのではないか。何時の時代でも、一番の敵は自身の中にいるということではないか。