「サウジ国王の仲介を蹴ったイラク」

2010年11月 3日


 イラクの新政府は、なかなか誕生しそうに無い。先に行われた選挙で、アッラーウイ氏の率いる党が、第一党になったが、首相職にあるマリキー氏の党が、第二党であったにもかかわらず、なかなかその座を手放そうとしない。

 そもそもの原因は、アッラーウイ氏が他の党との、連合を組むことに成功しておらず、過半数を占めて政府を構成することが、出来ないのだ。この間隙を縫って、マリキー氏側はあらゆる手段を講じ、延命策を図っているのだ。

 イラクの新政府誕生が遅れている理由は、そればかりではない。イランや湾岸諸国、そして、アメリカの思惑が、イラクの内政に大きく影響を与えているからだ。たとえば、サドル師はシーア派の重鎮だが、彼とイランとの関係は深く、彼の一派はイラク国内で、大きな勢力を持っている。

 アッラーウイ氏のグループに対しては、スンニー派のアラブ諸国と、アメリカが支援を送っているようだ。もちろん、アメリカはマリキー首相を残すことによって、影響力を維持する、という判断もあるようだが。

 そうした混沌とした状況の中で、クルド・グループはどちら側に付くのが、自分たちにとって有利になるのかを、計算している。あるときはアッラーウイ氏と通じ、あるときはマリキー氏と通じている、といった状態だ。

 これでは、イラクの政治家が一体となって、新しい政府を作るということは、困難を極めて当たり前だろう。結局のところ、イラクの新政府は出来ず、各派の思惑に加え、外部勢力によるテロが頻発し、毎日のように何十人という人たちが、犠牲になっている。

 そうしたイラクの混乱状況を見て、サウジアラビアのアブドッラー国王が、アッラーウイ派とマリキー派の、仲介を申し出た。両派をサウジアラビアに招き、何とか意見の一致を生み出させたい、ということのようだ。

 しかし、このサウジアラビアのアブドッラー国王の申し出は、あっさりイラク側によって蹴られた。もちろん、それはアッラーウイ氏あるいはマリキー氏自らの発言、という形ではない。

 イラクのなかでも、マリキー派の人たちにしてみれば、サウジアラビアがシーア派政権を嫌い、これまでイラクにテロリストを送り込んできている、という認識を強く持っているからだ。

 先日も、サウジアラビアのバンダル王子が直接的に、イラクに対する破壊工作を支援している、というニュースが流れていた。サウジアラビアからは、スンニー派の原理主義者といわれる、テロリストたちがイラク国内に潜入し、各地テロ活動を展開しているというのだ。

 その裏には、アメリカを始めとした各国の思惑も、働いているのであろう。同じように、イラン側も直接間接、イラクに対する働きかけを行っていよう。そうであるとすれば、当分、今の状態が続くということであろう。つまり、マリキー氏が首相の座に留まり、国内では弱者に対するテロ活動が、当分継続するということだ。

 友人のイラク人が国際会議を11月に予定しており、会議への参加を打診されていたのだが、国内政治が不安定なために、どうやら延期するような気配になってきた、無理も無かろう。