「イラクのT・アジーズ元副首相兼外相に死刑判決」

2010年10月28日

 イラクのサダム体制時代に、例外的に温和な表情を世界に見せていた、ターリク・アジーズ副首相兼外相に対し、イラクの裁判所は死刑判決を下した。それは西側世界に、相当のショックを与えているようだ。
 なぜならば、彼はカソリックのクリスチャンであり、自身が何もやましいことをした覚えがないとして、アメリカ軍に出頭し逮捕されているからだ。この死刑判決については、国連もヴァチカンも国際人権組織も、強く反対している。
 裁判所が示した罪状は、クルド人の追放、宗教グループに対する弾圧、人道に対する犯罪といったことのようだ。しかし、ターリク・アジーズ氏の長男ザイド・アジーズ氏は、父親が宗教グループに対して、弾圧を加えたということはない、と明確に否定している。
そして彼は、裁かれるべきなのは父親ではなく、ウイキリークスで暴かれているように、マリキー首相の犯罪の方だと語っている。
今回のターリク・アジーズ元副首相兼外相に対する裁判所の判決の前には、既に15年の判決が下っていたが、今回はそれが絞首刑に変わっている。その理由について、ターリク・アジーズ氏の長男は1980年に、マリキー首相の属するダウア党が、バグダッドにあるムスタンシリーヤ大学で、ターリク・アジーズ氏暗殺を企てて失敗したことに対する、復讐だと語っている。
当然この暗殺未遂の後、多くのダウア党のメンバーが処刑されたものと思われることから、長男の主張する復讐としての処刑判決は理解出来よう。
確かに、多くの旧サダム体制の幹部が、死刑判決を受け、既に処刑されている。まさに、それは復讐裁判と言っても、差し支えないのではないか。かつて、大東亜戦争が終了した後、東京で開かれた極東裁判でも、同様の勝者による裁判が行われたが、それがいま、イラクの国内で起こっている、ということであろう。いわば「イラク版の極東裁判」ということであろう。
サッダーム・フセイン大統領の非人道的な支配については、これまで多くが語られてきたが、アメリカ軍がイラク侵攻して以来、死亡したイラク人の数は、サッダーム・フセイン大統領によって殺害されたと言われている犠牲者の、何百倍あるいは何千倍にも及ぶのではないか。
複雑な人種構成、宗教構成のイラクでは、ある種の独裁強権体制は、必要悪であった部分もあろう。そのサダム体制に仕えたターリク・アジーズ氏を始めとする、旧体制幹部を裁くことに、どれだけの正当性があるのだろうか。
自身がイラクの旧体制の高官であった場合、勇敢にサッダーム・フセイン大統領の冷酷な国民支配に、自身と家族の生命を賭けて反論出来たろうか。戦争後に行われる裁判について、何らかの国際的な基本ルールを、設けるべきではないのか。