今年の夏は日本ばかりではなく、世界中が猛暑に襲われた。ロシアのモスクワでも、35度を上回る日が長い間続き、多数の死者が出たようだ。そればかりか、野菜を始めとする農作物にも被害が生じ、小麦は世界的な規模で大凶作となった。
世界中を襲ったのは、この小麦の凶作の結果、小麦の価格が暴騰したことだった。小麦輸出国の多くが、輸出価格を値上げし、あるいは輸出を制限し、あるいは輸出を止めたからだ。
エジプトは最初に、この小麦の値上げで打撃を受けた。8400万人といわれるエジプト国民の、パンの消費量は膨大なものだ。このパンが値上がりすることは、国民の不満を高めることになり、体制にとって大きな危険となった。
エジプトで次いで起こったのが、トマトの価格の暴騰だった。エジプトはナイルの賜物といわれる国であり、農産品、野菜、果物は豊富に収穫されるため、低価格であることが、貧しい庶民の生活を、長い間下支えしてきていた。
エジプトではガルギールと呼ばれるルッコラ、日本でも知られるモロヘヤといった野菜や、マンゴーやネーブルオレンジ、ブドウ、石榴など、果物が豊富に収穫されている。もちろん、エジプトの野菜の代表格であるトマトも、大量に栽培され収穫されている。
エジプトでは、このトマトを使った料理が実に多い。というよりも、トマトはあらゆる料理のベースになっている、と言っても過言ではあるまい。スープはもちろんのこと、サラダにも、煮物にも使われる。乾燥したものすらあるほど、一般的な食品なのだ。
つまり、トマト無しにはエジプトの食卓は飾れない、成り立たないといえるほど、トマトは主要な食材となっているのだ。そのトマトも猛暑の影響を受け、今年は不作となっている。
エジプトではこのところ、食料品の値上がりがひどかったが、ここに来てトマトの価格が、過去数ヶ月前と比較し、3倍に跳ね上がり、1キロが10~12エジプトポンド(約200円程度)になったのだ。この値上がりに庶民の台所は、直接的なダメージを受けることになった。(エジプトの平均給与は、最近引き上げられ400ポンドになった。)
これを見た与党国民民主党は、トマトを安価で販売する、活動を展開し始めた。もちろん、それは庶民に喜ばれることとなっているのだが、実はトマトの安価での販売は、与党国民民主党の選挙に向けた、選挙のための宣伝活動の一環だったのだ。
エジプトでは11月28日には国会議員選挙、そして来年には大統領選挙が待ち受けている。与野党ともに選挙で勝利するためには、庶民の支持をどれだけ取り付けるかに、かかっているわけだが、今度の選挙では、その鍵はトマトということになりそうだ。
エジプトの大統領はトマトが決める、という笑えない冗談が、現地ではささやかれているのではないか。