トルコの政権がエルドアン首相ギュル大統領によってリードされる、開発公正党(AKP)政権に代わって以来、トルコが次第に西側寄りというよりも、イスラム世界寄りにシフトしてきているのではないか、という疑問が欧米イスラエルのなかで、広がってきていた。
確かに、トルコのイランに対する外交や、シリアとの関係正常化、パレスチナ問題への関与の仕方を見ていると、トルコはイスラムの国であったということを、印象付けられよう。
トルコはイスラエルの参加する、NATOの合同軍事演習をボイコットしたり、イスラエルに対するパレスチナ対応を、強く非難してきてもいる。このため、イスラエル国内にはトルコを今までのような、中東世界唯一の友好国とみなすべきではない、という考え方が広がってきている。
トルコは本当にイスラム世界に、接近しているのだろうか。トルコは西側諸国に、距離を置き始めているのだろうか。この点については、幾つかのトルコの事情を、説明する必要がありそうだ。
トルコも他の諸国と同様に、アメリカのサブプライム・ローンの影響を受けている。経済は低迷傾向にあった。そのなかで、トルコが取るべき方向は、湾岸諸国との関係強化であった。湾岸諸国の資金をどう引き付けるか、ということだ。
そのためには、トルコのエルドアン首相がイスラエルに対して、強い立場を示す必要があったのだ。それは内心では、言葉ほど強いものではないのだが、それなりに効果を発揮し、湾岸諸国、次いでアラブ全体が強い支持を、トルコに送るようになった。
続いて起こったフロテッラ号事件、つまりガザへの支援船で、トルコ人に犠牲が出たことにより、アラブ諸国はトルコがパレスチナのために、血の犠牲を出してくれた、と大歓迎した。
こうしたアラブ諸国の反応を受け、イスラエルとアメリカ、そしてヨーロッパ諸国のなかに、トルコへの疑問が広がったということだ。そこで今回、トルコの立場を確認する、大きな問題がアメリカやヨーロッパ諸国から、トルコに対して突きつけられることになった。
それは、ポーランドやチェコなどに配備が予定されていた、ミサイルやレーダー・システムの配備に、ロシアが反発したことから、ポーランドやチェコではなく、トルコに配備しようという考えだ、
しかし、トルコにミサイルとレーダー・システムが配備されることはイランにとって、極めて不利なことになる。当然、イランとの関係改善を進めているトルコにとって、これは極めて難しい判断となろう。
イランは当然、早々とトルコへのミサイル配備に、反対の立場を示した。トルイコはトルコで、ミサイルの配備については明言を避けているが、そのミサイルが周辺諸国を攻撃することを、前提にしないこと、レーダーで得られる周辺諸国の情報を、しかるべき国に提供しないこと(イスラエルを指している)を条件とするようだ。
いまトルコでは、政治家と軍人の間で、熱い議論が展開されているようだが、最終的には落とし所を見出して、ミサイル配備を受け入れるのではないか、と思われる。
そうでなければ、トルコはアメリカやヨーロッパ諸国、そしてイスラエルから、完全に敵視される危険性があるからだ。そこで一番の活躍は、トルコのダウトール外相であろう。イラン側のかたくなな立場を氷解出来るのは、彼にしか出来ない芸当であろうから。