イスラエルの内閣は22対8で、イスラエルの新国民憲章を通過させた。この新国民憲章は、イスラエル国家を「ユダヤ人国家であり民主国家」と規定している。この憲章を提唱してきたのは、リーベルマン外相の率いるイスラエル・ベイトヌ党だ。
この新国民憲章については、ユダヤ人の閣僚の間にも、労働党のメンバーを中心に反対意見があった。つまり、ユダヤ人以外のイスラエル国民の立場を無視したものであり、それを強いるものだということだ。
これまで、イスラエルをユダヤ国家として認めるよう、ネタニヤフ首相はアラブ諸国に要求してきていたが、ここに来て見切り発車とでもいえる、イスラエル内部での決定を下すということであろう。これをイスラエルの議会クネセトに提案して認められれば、直ちにイスラエルはユダヤ人の国家、ということになるのだ。
そうなった場合、ユダヤ人と結婚したパレスチナ人や、ドルーズ・アラブ人は困惑し、苦しい立場に立たせられることになるし、それ以外の外国からの移住者たちも、同様に苦しい立場に、追い込まれることにあろう。
加えて、15パーセント以上といわれるパレスチナ・イスラエル人(イスラエル国籍を有するパレスチナ人)にとっても、大きな問題となっていこう。彼らは、この憲章がクネセトを通過し、正式に認められた後、イスラエル国家に忠誠を誓っていない、あるいは、イスラエルをユダヤ国家として、認めていないということで、国籍を剥奪されるケースや、イスラエルから追放されるケースも出てこよう。
加えて、400万人ともいわれる、難民となっているパレスチナ人が、イスラエルの地に帰還しようとした場合、彼らはイスラエルをユダヤ国家として、認めなければならないということになるのだ。
発言が激しいことでイスラエルの内閣内部でも、問題を起こしているリーベルマン外相は、先日、個人的な意見として、イスラエルからパレスチナ人を追放すると語っているが、彼の考えを進めていく上では、今回の新イスラエル国民憲章が通過することは、大きな意味をもってこよう。
パレスチナ難民が、もしイスラエル国民となることを受け入れて、イスラエルに戻ろう(自分の住んでいた土地に戻ろう)と考えた場合、彼らはイスラエルをユダヤ国家と認め、イスラエルが民主的な国家だと認めなければならないということだ。
つまり、今回のイスラエルの新国民憲章は、パレスチナ難民が帰還する権利を、実質的に奪うことを意味しているのではないのか。パレスチナ難民がイスラエルをユダヤ国家と認めることも、イスラエルを民主的な国家と認めることもありえないからだ。
このイスラエル内閣の決定が、クネセトで正式に認められた場合、アラブ諸国やパレスチナ自治政府は、どのような反対行動を起こすのだろうか。実際には、いまの段階から反対運動を、国際的に起こすべきだと思うのだが、その様子は無い。イスラエルが決定した後では、それを撤回させることは、至難の業だと思えるのだが。