「バハレーンの体制不安・シーア派の動向」

2010年10月 7日


 ペルシャ湾に面した、湾岸諸国の一員であるバハレーンで、政治的に不安定な状態が続いている。これは次第に、修正が効かなくなるのではないか、という不安が感じられる。

 バハレーンはクウエイト、サウジアラビア、カタールに囲まれるようにして、アラビア半島のペルシャ湾岸にある島国だ。国土面積は665平方キロメートル、人口わずか791000人の国だ。

 この国の悲劇は、人口の75パーセントがシーア派イスラム教徒であるにもかかわらず、首長(国王)がスンニー派であり、政府の権力機構はスンニー派の人たちによって、牛耳られているということだ。

 結果的に、シーア派国民の間には、差別から来る不満が、大分以前から生まれていた。そうした不安定な国情に加え、シーア派の国であるイランが、バハレーンを自国領土だ、と主張していた経緯がある。このため、バハレーンのシーア派国民のなかには、イランに対し強い親近感を感じていたし、イランに宗教の勉強に、出向いた者も少なくない。

 したがって、バハレーンのシーア派国民と、イラン国民の間には、一種独特の連帯感が、あるということだ。イランが革命以来、周辺諸国に影響力を強めてきたが、そのことは、バハレーンのシーア派国民を刺激し、勇気付けてもきていた。

 昨今では、公然とシーア派国民のよるデモが起こり、反政府の集会が行われ、ブログでも政府非難が、行われるようになってきていた。

 そうした状況のなかで、イランとアメリカ・イスラエルとの、軍事的な緊張が高まってくるにつれ、バハレーン政府は自国内に、アメリカ軍の海軍基地があることから、イランによる破壊工作と、軍事的攻撃の懸念を、強めるようになった。

 バハレーン政府はシーア派国民のなかに、イランのためにスパイ行為を働いている者を探し始め、デモ参加者なども加え、8月以来、今日までに250人以上の人たちが、逮捕され拘留されている。これは、近く行われる選挙の前哨戦、ということでもあろうか。

 彼らは拘留されるばかりではなく、バハレーンの警察によって、相当ひどい拷問を、受けているということだ。そのことは、世界の人権組織によって、非難されるようになったし、バハレーンの人権組織によっても、暴露されている。

 拷問を受けた者は相当の重傷を、負っているにもかかわらず、最低限の医療手段も講じられることなく、放置されているということだ。

 なかでも、拷問によって重傷を負い、手術が必要だとされているのは、シーア派のシーア・ハック政治党(組織)の代表者である、アブドッジャリール・アルシンガセ氏だ。もちろんそのことは、バハレーン治安部によって、否定されている。バハレーンの治安部は、テレビを通じて、拷問の事実は無い、と発表している。

 宗教の宗派が違うだけで、差別が生まれていたケースは、他のアラブでもあったし、現在もあろう。たとえば、その典型がサッダーム・フセイン大統領時代のイラクだ。政府に反対するシーア派国民の多くが、逮捕、拷問を受け、殺害される者も、少なくなかった。

 結果的に、イラクのサッダーム・フセイン体制は、アメリカによって打倒されたわけだが、バハレーンの場合も、こうまでもシーア派国民に対する、弾圧が過激になると、将来が危ぶまれる。一部の情報によれば、バハレーンの王家はシーア派国民の動きを、極度に警戒しているということだが、それはクウエイトの場合も、サウジアラビアの場合も、カタールの場合も同様であろう。

 もし、バハレーンの王家がシーア派国民によって、打倒されるようなことになれば、それはクウエイトにもサウジアラビアにもカタールにも、飛び火する危険性が高いし、イランは一気にこれらの国々の、シーアは国民の行動を、支援するようになるのではないか。