今週の月曜日の朝、パレスチナのヨルダン川西岸地区にある、ヘブロン市に近いファッジャル村の、モスク(イスラム教の礼拝所)が放火された。モスクの一部が燃え、中にあったコーランも焼かれた。
アメリカでも最近、フロリダのあるキリスト教教会が、コーランを焼くセレモニーを開催すると宣言し、大騒ぎになったばかりだ。これは9・11事件に対する報復といったことが、理由付けられていたが、あくまでも、このキリスト教会の責任者の、自己宣伝ではなかったのか。過激なキリスト教徒からは、このような馬鹿げたことが、もてはやされる野蛮な風潮が、いまだにあるのだ。
それでは、今回ヨルダン川西岸地区の、ファッジャル村で起こった、モスクへの放火は、何を狙ったものであったのであろうか。放火犯はファッジャル村に隣接する、イスラエル人入植者の集団だった。
彼らはモスクに放火したばかりではなく、モスクの壁にもイスラム教の預言者ムハンマドを、卑下する落書きを残していった。つまり、明らかに入植者たちは、イスラム教徒のパレスチナ人との間に、トラブルを起こすことを、狙っての犯行であった。
一説によれば、こうした入植者による犯罪は、外国の要人が訪問した折や、和平交渉が進められると、起こるということだ。つまり、和平交渉が進展して、入植活動が抑えられることを、嫌っての反抗ということであろう。
今回も、アメリカの圧力によって、イスラエル政府はパレスチナ政府との間で、和平交渉に入っていた。そして、その交渉が決裂するまでの期間は、イスラエル側が入植地の拡大目的の建設活動を、凍結するということになっていた。
もちろん、そのことはイスラエル人の入植者たちにとっては、極めて不満であったろう。彼らはこの状態を覆すために、入植地問題を宗教的対立の問題に、摩り替えようとしているのかもしれない。イスラム教対ユダヤ教の対立という形にすれば、世界のユダヤ教徒が、彼らを無条件で、支援することが期待できるようになるからだ。
しかし、そのことはイスラエルのユダヤ人ばかりか、世界中のユダヤ人にとって、極めて危険なことでもあろう。世界中のイスラム教徒が、無差別にユダヤ人を、敵視するようになるからだ。
今回のファッジャル村のモスク放火事件は、放火されたモスクと焼かれたコーランの映像が、世界の報道機関によって報じられている。そのことの与えるインパクトは大きかろう。そうなると、イスラム教徒たちはユダヤ非難を、世界規模で起こし、ユダヤ人を心底では敵視し、毛嫌っているキリスト教徒の間にも、反ユダヤの感情を、煽っていくことになろう。
OECDが10月後半に、エルサレムで開催を予定している観光会議には、既にイギリスとスペインが、欠席を宣言している。今回のモスク放火は、新たな不参加国を、出すことが予測される。
イスラエルの入植者たちがもくろむ宗教対立は、実は自分たちの身を、危険にさらすことになるのではないか。イスラム諸国の政府に、アメリカやイスラエルが圧力をかけたとしても、反応は大衆の間から出てくるわけであり、押さえ込むことは、不可能であろう。