「イランの聖職者間闘争の始まり」

2010年10月 5日


 昨年の6月に実施された、イランの大統領選挙で、イランの聖職者集団にひびがはいた、ということを報告した。そして、それが今度はハメネイ師とアハマド・ネジャド大統領との、仲たがいに発展しているのではないか、ということもご報告した。

 ここにきて、新たな聖職者間の対立が、表面化してきている。それは権力側の聖職者たちが、反政府系の聖職者のブログを、閉鎖する動きに出たことで、明らかになった。権力側の聖職者たちは、ハメネイ師の権力を笠に着て、それを実施しているようだが、それが実際に、ハメネイ師の指示によるものなのか、どうか分からない。

 もちろん、閉鎖されたブログが、グランド・アヤトラ(アヤトラ・オズマ)と呼ばれる、シーア派宗教最高権威の人たちであることから、ハメネイ師が指示した可能性も否定できない。それは、そもそもハメネイ師がホメイニ氏の後継となった時点で、十分な聖職者のリーダーになるだけの、学識を積んでいなかったということが、これまで言われてきたからだ。

 ハメネイ師はホメイニ氏に対して、最も忠実であったことから、2階級特進でアヤトラに昇格し、現在の聖職者のトップの地位に、就いているのだ。それだけに、グランド・アヤトラの学識と地位を持つ人たちからは、常に不勉強者という、陰口を叩かれてきているのだ。

 今回、イラン社会内部で表面化してきたのは、「イランの聖職者に対する外敵の工作により、聖職者間の対立を、生み出そうとする陰謀がある。」というものだった。確かに穏健派と目される聖職者たちに対しては、西側のマスコミや政府は、押し並べて好意的な、対応をしている。

 続いて出てきたのが、今回の反政府側聖職者の、ブログ閉鎖の動きだった。ブログを閉鎖されたのは、グランド・アヤトラのユースフ・サネイ師と、グランド・アヤトラのバッヤート・ザンジャニ師だった。

 グランド・アヤトラという称号は、イスラム教シーア派の、最高の学識を持つ者に与えられる称号であり、その下にアヤトラという位があるのだ。ハメネイ師はホメイニ師の強い働き掛けで、やっとこのアヤトラに、二階級特進で昇格することが出来たのだ。

 この二人のグランド・アヤトラ以外にも、アリー・ムハンマド師というグランドアヤトラのブログも、先月初めの段階で、閉鎖されているということだ。

 一体これは何が原因なのか、ということを考えると、これら反政府のグランド・アヤトラたちのブログが、イラン国民の間で強い支持を、受けているからであろう。そのアクセス件数が、ハメネイ師のブログなどに比べて、格段に多いということではないのか。

 そうなると、彼ら反政府のグランド・アヤトラの意見が権威をもって、国民の間に広がり、やがては、ハメネイ師の権威が、失墜してしまうかもしれない。そこで、政府(あるいはハメネイ師サイドが、あわててブログの規制に動いた、ということなのかもしれない。

 もう一つの可能性は、アハマド・ネジャド大統領とハメネイ師の対立のなかで始まった、ハメネイ師降ろしの工作かもしれない。真相は現段階では分からないが、やがて知るところとなろう。いずれにしてもいま、イラン国内の権力、聖職者集団のなかで、深刻な対立が始まっていることは、極めて明確だということだ。