「エルバラダイ氏の政治改革の夢は夢で終わったか?」

2010年10月 2日

 エジプトに民主主義を持ち込もうとして、自身が大統領に立候補できる道を探り、活動を展開してきた元IAEAの事務局長、ムハンマド・エルバラダイ氏の大いなる夢は、どうも夢で終わりそうな気配になってきた。
彼はまず、明確にではないが自身が来年の大統領選挙に、立候補するという前提での、動きをはじめた。そのためには、彼が立候補できる、環境を作る必要があると考え、選挙に関わる憲法の、改革を目指した。
憲法の改変を実現するために、彼は国民の支持署名を、集める作戦に出た。携帯電話やパソコンを通じての呼びかけに、多くの国民が賛同し、たちまちにして、70万人程度の署名を、集めることに成功した。
それは時間の問題で、100万人を突破するだろう、とも予測されていた。多くの若者やインテリが、彼のこの提案を、支持してくれたからだった。それは、この作戦では、誰も逮捕されることも、暴力を受けることも無いからだ。つまり犠牲を蒙る可能性が、無かったからかもしれない。
また新手の作戦であったために、新しいもの好きのエジプト人から、格好がいいとして、受け入れられたのかもしれない。もちろん野党の幾つかは、彼を踏み台にして、憲法を改正し、自党の立場を強くしようとも、考えたのであろう。
もう一つ彼が考えた作戦は、近く行われる国会議員選挙を、ボイコットすることだった。国民が、そして次回の国会議員選挙をボイコットすれば、世界は署名運動と合わせ、エジプトの国内政治が、大きく変わろうとしていることを取り上げ、その動きを支援してくれる、と考えたのかもしれない。
しかし、ムハンマド・エルバラダイ氏が考えるほど、エジプトの政治風土は甘くなかった。エジプトの最大野党であるムスリム同胞団は、それまで、ムハンマド・エルバラダイ氏と共同歩調をとっていたのだが、このムハンマド・エルバラダイ氏の、選挙ボイコットの呼びかけには、賛成しなかった。
ムスリム同胞団ばかりではなく、エジプトの最大野党三党が、揃って選挙ボイコットをしないことを、明らかにしたのだ。アラブ民族主義者のナセル党、そして穏健派のワフド党、左翼のタガンムウ党がそれだ。
ムスリム同胞団を加えて、主要野党4党がこうした動きに出たのは、当然であろう。ムスリム同胞団は現在、非合法とされながらも、88議席を獲得している。この議席を放棄する気はなかろう。(選挙によって選出される議席数454、総数518議席)
それどころか、ムハンマド・エルバラダイ氏が、ムバーラク体制を非難してくれ、行動を起こしてくれたことによって、政府与党はあまり明らかな選挙妨害は、出来なくなるだろう、と考えているのかもしれない。そうであるとすれば、ムスリム同胞団は次回選挙で、議席数を伸ばすことが、期待できよう。
結局気が付いてみると、ムハンマド・エルバラダイ氏を支持してくれたのは、弱小2政党だけであったということだ。彼は主要野党にとって、エジプトの次回国会議員選挙の、いいジャンピング・パッドに、過ぎなかったということかもしれない。