「M・エルバラダイ氏エジプトの民主化はオバマ頼み」

2010年10月31日


 ムハンマド・エルバラダイ氏は、エジプトの大統領選挙に立候補しようと、運動を展開してきたが、ここに来てほぼ不可能と考えたのであろうか。元IAEAの事務局長ムハンマド・エルバラダイ氏が、アメリカのオバマ大統領に対し、アラブの民主化を進めるよう要請したようだ。

彼はエジプト政府が国民の要望に応えなければ、失望した若者がイスラム原理主義に流れて行き、危険な状況が拡大すると警告している。確かに、エジプトでは最近になって、20人もの若者がジハード組織に加盟し、逮捕されている。

彼はこれまで、誰でも大統領選挙に立候補できるよう、憲法の改正を要求した、しかしそれは失敗に終わった、次いで1128日に実施される国会議員選挙をボイコットするよう、野党各党に働きかけた。しかし、これも野党各党からは、思わしい反応が無く、ほぼ失敗に終わっている。

そこで、ムハンマド・エルバラダイ氏は、テロとの50年戦争を宣言しているアメリカを活用し、突破口を開く方法を考えたようだ。曰く、エジプト政府が国民の要望に応えず、民主化を進めなければ、国民の不満が募り、イスラム原理主義に流れていく。その結果は、エジプト社会が極めて危険なものに、なっていくというものだ。

もちろん、ムハンマド・エルバラダイ氏がいまの段階で、エジプトを取り上げているのは、当面の目標がエジプトの民主化ということであって、アラブ全体の民主化推進が、彼の構想の中にはあろう。

ムハンマド・エルバラダイ氏は、エジプトの貧困についても触れている。エジプト国民の半数が、電力の供給を受けられない状況で暮らしており、綺麗な飲料水も確保されていないし、健康維持へのサービスも受けられないでいる、と指摘している。

 そうした状況が続くことは、時限爆弾と同じように、時間の経過の後には、国民による暴力的抵抗が始まるというのだ。確かにその危険があることは、否定できまい。しかし、同時にエジプト社会が、そう簡単には暴発しないことも事実だ。

誰かが、大衆は思想のためではなく、パンのために革命を起こす、と言ったが、エジプト社会はいまパンに飢えているだろうか。確かにパンが値上がりして、今年は問題になった。しかし、その後の政府の緊急対応は、その問題を解決し、事なきを得ている。

トマトの暴騰の場合も同様で、政府は緊急対応を行っている。そればかりか、トマト不足をちゃっかり、政治宣伝に利用し、来る選挙を有利に展開しよう、とさえ考えているのだ。

エジプト政府にとって幸運なことは、まさにナイル川の恩恵であろう。ナイル川がある限り、農業は多くの収穫物をもたらしてくれる。一部の商売人が大もうけしようとして、品不足を画策したりするが、強権を持ってすれば、ものがあるだけに、問題を解決することができるのだ。

ムハンマド・エルバラダイ氏が、アメリカのオバマ大統領に訴えたような状況には、なかなかなりにくいのではないか。そうした判断が、ムハンマド・エルバラダイ氏の口をついて出てきたのは、彼がこの国から28年間も、離れていたことによろう。つまり、ムハンマド・エルバラダイ氏はエジプト社会に戻ってきたが、それはまるで浦島太郎のようなもので、現実が見えていないのではないか。