中東世界には、商才に長けた人たちが沢山いる、商売に才能のある人は、社会的にも評価されるのだ。それは、イスラム教の預言者ムハンマドが、商人であったことに、由来している。
それだけに、中東ではレバノン商人を筆頭に、シリア商人、リビア商人、ペルシャ商人などが、商才が長けているとして、世界的にも知られている。シリア商人の老獪さ、レバノン商人の度胸のよさなどは、つとに知れ渡っている。
今回のイランのアハマド・ネジャド大統領のレバノン訪問では・いみじくもその片鱗が見えた気がした。アハマド・ネジャド大統領は、巨額の援助をすることを冒頭に宣言し、レバノン人の気を引いた。
加えて、レバノン人が一番憎んでいる、イスラエルを非難し、イスラエル軍によって攻撃された、レバノン南部の村を訪問している。そこでは、レバノン人こそが戦いの英雄であるとし、解放闘争はレバノンから始まる、といった激しいイスラエル非難の演説も行っている。
もちろん、レバノン人の多く、なかでもヘズブラ支持のシーア派の人たちは、アハマド・ネジャド大統領のレバノン訪問を大歓迎した。彼が通る沿道には、巨大なアハマド・ネジャド大統領のポスターが張られ、沢山の人たちが熱狂的に迎えた。
アハマド・ネジャド大統領はミシェル・スレイマン大統領と会談し、ヘズブラのナスラッラー師と会談し、ハリーリ首相とも会談している。しかし、他の二人とは異なり、ハリーリ首相との会談は、アハマド・ネジャド大統領が期待する、結果にはならなかったようだ。
アハマド・ネジャド大統領はハリーリ首相との会談で、イランとレバノンがイスラエルに対抗する、同盟関係の国家として、特別な関係になることを望んだようだが、丁重に断られている。
ハリーリ首相は、レバノンが極めて特殊な文化的国家であり、いままで、イスラエルとの間起こった戦争を通じて、悲惨な状況に置かれてきたこと、アラブ・パレスチナ問題でも、多大の犠牲を払ってきたことを説明し、イスラエルに対抗するための、イランとの新たな関係を、作るつもりは無いと語っている。
お見事といえる、ハリーリ首相の対応振りだ。イランのアハマド・ネジャド大統領の希望するような形で、そのまま彼の意見を受け入れていたのでは、レバノンは明日にでも、イスラエルの攻撃の対象になってしまおう。
レバノン内戦で破壊され尽くされたベイルートを、ハリーリ首相の父が私財を投げ打って再建した。それを再度イスラエルの空爆によって、灰燼にしてしまう気は毛頭ないということであろう。