レバノンのセクシーなポップ歌手として著名だった、タミーミさんを失恋の恨みから、委託殺人に踏み切った、エジプトの大富豪が、当初、死刑だったものが、15年の投獄に減刑された。
エジプトでは金持ちや権力者は、法の上にいると言われてきたが、今回の場合は、まさにその典型的な判決が、言い渡されたということであろうか。委託殺人の犯人タラアト・ムスタファは、ムバーラク大統領の二男で、次期大統領と噂の高いガマール氏とも、ごく親しい関係にあった人物だ。
タラアト・ムスファは、彼のガードマンであるスッカリに、200万ドルを支払って、殺害を委託したというのだ。犯行の現場は、アラブ首長国連邦のドバイだった。このニュースはたちまちにして、アラブ世界で広がり、大きな話題となったが、多分に減刑されて、死刑になることはあるまい、と誰もが予想していた。
今回の15年の刑というのは、結果的に刑期の途中で、恩赦を受け、5―7年で終わるのではないか、と思われる。
そもそも、今回の殺人事件で、死刑から15年の刑に減刑されたのは、被害者タミーミの親が、賠償金を受け取り、減刑を嘆願したことにある。イスラム世界では、殺人でもその親族が許せば、大幅に減刑される仕組みだが、今回の場合その仕組みが、適用されたということであろう。
いずれにせよ、今回の15年の刑への減刑は、ガマール氏の働き掛けが、推測されようから、彼にとっては、必ずしもいい話ではないかもしれない。庶民の間では、殺人をしても、金さえあれば、地位さえあれば、軽い刑で済む、という考えが、ますます広がろうから、法に対する信頼性は、弱まるかもしれない。