「トルコの国民投票とクルドの対応」

2010年9月26日


 915日に行われた、トルコの改憲をめぐる国民投票の結果は、与党開発公正党(AKP)の改憲支持票が58パーセント、反対票が42パーセントという結果を生み出した。

この結果は、今後、トルコに大きな変化をもたらすであろう、というのが一般的な推測になっている。与党AKPは今後、来年に向けて改憲の準備を進めるであろう。その目的は、エルゲネコンと呼ばれる地下組織(影の政府)を撲滅し、司法の公正化、軍の政治関与を、完全に抑えるシステムを作り出し、クルドとの問題を、解決することにあろう。

エルゲネコンについては、既に撲滅に向けて着手され、エルゲネコンのメンバーが次々と逮捕され、裁判にかけられており、解決は時間の問題であろう。その上では、最終的にエルゲネコン問題を解決するために、司法の公正化も必要であり、エルゲネコンと繋がる裁判官は、追放されることになろう。

軍部に対しても、欧米を味方にしながら、政治への関与(クーデター)を阻止する方針に向けて、動き出そう。既にこのことについても着手されており、エルゲネコンと繋がっている軍幹部や、過去にクーデターを計画した、あるいはクーデターを実行した、軍の幹部とOBが、逮捕されてもいる。

クルド問題に付いても、今後、解決に向けて、活発な動きが見られよう。今回の国民投票で、トルコのクルド人やクルドの政党は、棄権という立場を採り、反対はしなかった。つまり、消極的な改憲賛成の、立場を示したのだ。

クルドがそうした立場を採ったのには、これまでのAKPの努力が、クルド人によって評価されているからであろう。AKPはクルド語のテレビ、ラジオ放送を許可し、クルドの文化を尊重する方針を打ち出し、実際にクルド語による、国営の24時間のテレビ、ラジオ放送が、始まってもいる。

クルド人のなかで、あくまでも抵抗闘争を続け、トルコからのクルド地区の分離独立を主張している、PKK(クルド労働党)内部でも、意見の相違が、見られ始めている。

PKKの最大のスポンサーであった、エルゲネコンや、トルコの軍部が力を失ったことで、PKKの武力闘争は、窮地に追い込まれつつある。イスラエルがスポンサーという情報もあるが、イスラエルもこれまでのように、PKKを支援し続けるのは、困難になって来ているのではないか。

PKK内部ではいま、トルコの刑務所に収監されている、アブドッラー・オジャラン議長派と、徹底抗戦派に二分しているのだ。このことが公然の事実となったのは、先にハッカリ県で起こった、ミニ・バス爆破テロについて、PKKが犯行声明を、しなかったことがきっかけだ。

PKKはいま、トルコ・クルドのムラト・カラユランが率いるグループと、シリア派のフェフマン・フセインの率いる、強硬派グループに分裂しているのだ。今回の路肩爆弾によるテロは、フェフマン・フセイン・グループによるものだとされている。フェフマン・フセインの部下である、ベデイルハン・アボ(コードネームはバホズ・エルダル)のグループが、直接作戦に関わったと、報告されている。

アブドッラー・オジャラン議長は大分前から、既に武力闘争放棄を、メンバーに呼びかけていたが、それがここに来て、より明確な形になったのであろう。クルド人はエルドアン首相の妥協路線(クルド人との関係改善路線)を、間接的に支持しながら、平和的に権利を拡大していく、方針なのであろう。

クルドの政党などが主張する、クルド地区の分離と、完全な自治権の要求は、あくまでも、交渉の最初に示すカードであり、要求が今後も変わらない、とは思えない。それは、クルド地区の開発には、トルコ中央政府との協力が、絶対的に必要だからだ。

トルコは今後、国内政治問題が解決に向かい、欧米との関係も改善していくものと思われる。一般的に言われている、アメリカやイスラエルとの関係に、懸念があるという意見は、トルコの内情が分かっていない人たちの、判断ではないのか。