イランに行けば、当然のことながら、昨年実施された大統領選挙後の、イラン国民の動きが、その後どうなっているのかに、関心が寄せられる。あれだけ反政府運動が、首都テヘランで盛り上がったのだから、何か今でも、くすぶっているのではないか、と誰もが期待するだろう。
イラン人の友人は、まじめにアメリカ軍の攻撃が、起こることを期待している、と語っていた。しかも、彼はアメリカ軍の攻撃は、あくまでも核施設だけであり、他の一般住民が居住しているところには、絶対攻撃しない、と断言していた。
アメリカ軍が攻撃を実施し、イランの核施設が全部破壊されれば、現体制の国民からの信頼は地に落ち、体制は打倒され、民主的な欧米型の政府が、誕生するだろう、というのだ。
彼は真顔でそう言っていたが、他のイラン人と話しても、似通った内容の答えが返ってきた。私が外国人だから、本音を話しやすい、ということもあるだろう。もちろん、イラン人特有のサービス精神で、外国人の好みの返事を、考えて話しているとも言えよう。
つまり、外国人はイランの現体制が、打倒されることを期待しているであろう、という前提でサービス精神を遺憾なく発揮して話してくれているのだ、とも考えられるのだ。
この話をある友人に話したところ、彼の返事は次のようなものだった。「つまり、イラン人は他力本願なんですよ。外国が深く関与してこない限り、自分たちでは、現状を変えようとは、必死で考えることは、無いんです。昨年の大統領選挙の結果に怒った国民が、あれだけ大規模な反政府の、抗議デモを展開したのに、今は誰もそんなこと考えていませんよ。大統領候補者だったムサヴィ氏もカロウビ師も、今では忘れ去られた人に、なっていますよ。」というのだ。
確かにそうかもしれない。しかし、以前にここで書いたように、昨年の大統領選挙以後に、幾つかの変化が、イランの政治社会内部に、起こっていることも確かなようだ。
私は昨年の選挙を機に、神権体制内部に分裂が起こった、そして、アハマド・ネジャド大統領とハメネイ師の間にも、齟齬が発生し始めていると書いた。イランの友人も、同じことを言っていた。彼はアハマド・ネジャド大統領が就任式で、ハメネイ師の手の甲にキスをしなかったのは、明らかなハメネイ師に対する、拒否反応だったというのだ。
では何故、アハマド・ネジャド大統領は、イランの最高権威者である、ハメネイ師に対して、そうも強気になれるのか?言うまでも無い、彼の後ろには、革命防衛隊が付いているからであろう。
問題は革命防衛隊が軍隊であり、軍隊は最新の兵器を入手したい、と常に考えるということだ。ハメネイ師は核兵器の開発を、全面否定しているが、彼がイスラム法学者である以上、当然の判断であろう。しかし、ハメネイ師が権威を無くした場合、イランが核兵器開発に、向かう危険は否定できまい。今後はハメネイ師のイラン国内での、権威の動向を見守る必要がありそうだ。
ハメネイ師の権威について、アメリカやイスラエルの情報機関も、私同様に注目しているかもしれない。イランの友人が望んでいるように、アメリカやイスラエルは、イランを軍事攻撃するかもしれない。それはハメネイ師の失脚が、明らかになったと同時に、起こるのではないか。