エジプトで何人かのエジプト人の友人たちと話した。その彼らの話す内容が、実に興味深かったのでご紹介しておこう。
述べるまでも無く、エジプトに今の時期に行けば、最大の関心事は次期大統領選挙に関する、テーマということになろう。これまで何度か書いたが、大筋ではあまり、外れていなかったようだ。
エルバラダイ元IAEA事務局長が、欧米式民主主義を信じ、それをエジプトに当てはめようと考えた。現状では法律的に、彼が立候補できないために、彼に対する支持の署名運動を展開して、その結果を政府に突きつけ「これだけの国民が私を支持しているのだから、政府派憲法を改正して、私に立候補する権利を与えろ。」ということであったろう。
エルバラダイ氏は完全に、外国ボケしていたのであろう。そんな署名運動で、エジプト政府が憲法を改正し、野党やそれ以外の人士の、大統領選挙への立候補を認めるようであったのなら、既にムバーラク体制は終わっていたはずだ。署名運動が何の効果も無いという現実を、彼は知らなかったのだろうか。
何時もエジプト事情を話してくれる、友人が言う事情説明はこうだった。「エルバラダイ氏がエジプトに、民主化を持ち込もうとした。彼は世界的にも著名な、元IAEAの事務局長だ。だからエジプトの改革派は、一抹の期待を彼に寄せた。若者は血気盛んであり、署名運動という新手の政治活動に、歓喜して参加した。これなら警察に棍棒で殴られることも、逮捕されて投獄されることも、無いからね。」
全くその通りであろう。しかし、このエルバラダイ式民主主義の実現運動の中で、アレキサンドリアの青年が犠牲になっているし、多くのムスリム同胞団のメンバーが、逮捕されてもいる。それ以外の野党のメンバーにも、逮捕者、投獄者が多数出ている。
つまり、エルバラダイ氏の大統領選挙立候補への事前運動は、それなりの犠牲を、既に生み出していたということだ。そのことを、エルバラダイ氏はどの程度重く、受け止めているのであろうか。もちろん、エジプト国民が彼を利用して担ぎ上げ、政府にひと泡吹かせてやろう、と考えた部分もあろうから、犠牲者が出た責任は、エルバラダイ氏だけにあるわけでもあるまいが。
続けて友人が言うには「エルバラダイ氏の大統領立候補に向けた活動で、エジプト国民はスッカリ振りまわされ、下馬評で沢山の立候補予定者の名が挙げられた結果、もう大統領に誰がなろうが、どうでもよくなったんだよ。つまり、散々かき回されて、エジプト人の頭の中が、空っぽになったってことかなあ。あるいはガス抜きが出来た、と言うべきかなあ。結局はガマール(ムバーラク大統領の次男)に絞られたんじゃないか。」ということだった。案外そうかも知れない。ガマール氏とムバーラク大統領に、今後、何か特別の事態が発生すれば、この限りでは無かろうが、現状では友人の言う通りかもしれない。