エジプトで来年に実施される予定の、大統領選挙に向けて活動を続けている、元IAEA事務局長のムハンマド・エルバラダイ氏が、言ってはならないことを、言ってしまったようだ。
風テンの寅さん風に表現すれば「それを言っちゃあお終いよ。」というところであろうか。ムハンマド・エルバラダイ氏は「ムバーラク体制は数カ月以内に倒れる。」と言ったのだ。
ムハンマド・エルバラダイ氏はどこか、勘違いしているのではないだろうか。彼が提唱したと思われる、国民に呼びかけた署名運動は、すでに100万人レベルに達しており、推進メンバーたちは今年中に、2-300万人の署名が集まると豪語している。
しかし、それはあくまでも、お祭り騒ぎの好きな、エジプト国民の国民性に、よるものではないのか。エジプトに限らず、アラブ世界では体制に、不満を抱いている大衆がほとんどだ。不満の原因は多分に、大衆側にもあるのだが。
彼らは自分が安全圏にあって、行動を起こすことは、何ら抵抗を感じない。政府が認めたデモでは、思いっきり騒ぎまくるのだ。今回の署名運動も、実のところ署名する側に、さしたる危険も及ばないだろう。
しかし、その署名がたとえ1000万人分に達しても、体制には何の影響も与えないのだ。したがって、ムハンマド・エルバラダイ氏が欧米社会のように、多数の署名が集まったからと言って、大勢に影響を与えうる、と考えているとすれば、大間違いであろう。
そもそも、ムハンマド・エルバラダイ氏が、大統領に立候補しようと思えば、憲法を変えなければならないが、そう簡単には行くまい。加えて、既存のムスリム同胞団のような組織に乗って、立候補しようとすれば、明確に彼は本心ではないとしても、(イスラム原理主義支持)の立場を示すことになる。その場合は世俗派の反発を受けよう。
ムハンマド・エルバラダイ氏を支えるはずの、野党各派の間には、既に明確に分裂傾向が見えている、と評する専門家もいる。ある著名な芸能人は、ムハンマド・エルバラダイ氏が、ムスリム同胞団の支持を受け入れたことに対し、嫌悪感を顕わにし、抗議している。
多数集まった署名を踏み台にして、彼は自信を得たのであろうか。ムハンマド・エルバラダイ氏は、11月に予定されている、国会と地方議員選挙を、ボイコットすべきだ、と呼び掛けているが。
しかし、政府は選挙を実施するであろうから、結果的には国会議員の相当数が、与党によって占められ、ムハンマド。・エルバラダイ氏を支える、野党の議員数は減るだけであろう。
ムハンマド・エルバラダイ氏は「ムバーラク体制の早期終焉」を口にしたが結果は逆になるのではないか。エジプトの庶民は決して、それほど単純ではない。エジプトの庶民が表情に見せる微笑みが、場合によっては全く逆の感情を、ごまかすためのものである場合もあるのだ。ムハンマド・エルバラダイ氏はやはり、あまりにも長い間、国外で生活しすぎ、エジプト国民の本音を、理解出来なくなっているのであろうか。